『銀色の路』完結記念! 安彦良和×原泰久 超絶画力対談

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安彦良和先生の最新作『銀色の路―半田銀山異聞―』完結を記念して、『キングダム』の原泰久先生との対談をお届けします! 実は、安彦先生と原先生が対談するのは三度目。かねてより立場や年齢を超えて尊敬しあう二人に、「合戦ものの魅力」、「史実と創作の関係」、「今後のビジョン」等を縦横無尽に語り尽くしていただきました。超レアな安彦先生の仕事場探訪も!
※こちらの対談は2025年夏に収録いたしました。

司会・文/ヤングジャンプ編集部
撮影◎市川秀明

 

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プロフィール

安彦良和(やすひこ よしかず):
1947年北海道生まれ。虫プロに入社。その後、フリーランスとなって『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナー兼アニメーションディレクターをはじめ数々のヒット作に携わる。漫画家に転身してから『王道の狗』など歴史を題材とした作品を多く発表し、最新作『銀色の路-半田銀山異聞-』が今号のYJをもって完結。

原泰久(はら やすひさ):
1975年佐賀県生まれ。2003年、週刊ヤングジャンプの月例新人賞にて『覇と仙』が奨励賞を受賞。2006年、週刊ヤングジャンプにて『キングダム』の連載を開始。同作にて、第17回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。2023年には累計発行部数が1億部を突破。現在は1億2000万部を超える。

 

【アナログへのこだわり】

原 お忙しいところ、本日はありがとうございます。よろしくお願いいたします。

安彦 とんでもない。原さんこそ、お忙しいのに。今日は福岡から来られたんですか。

原 はい、先ほど飛行機で。

安彦 遠路はるばるありがとうございます。一旦ここでお話しして、後で仕事場をお見せする形で良いですかね。

――はい、もちろんです。

安彦 記憶が曖昧ですが、原さんの仕事部屋を以前テレビ番組で見ましたよ。あまりにも綺麗な部屋でホテルかと思いました。

原 今の新しい仕事場でしょうか。『キングダム』の連載開始当初は、狭いファミリーマンションだったんです。ただ、連載が続きスタッフを増やさないといけなくなるにつれ、広くなっていきました。(原先生が『キングダム』連載開始前にアシスタントをした) 井上雄彦先生の仕事場が凄かったので、それが理想になっているというのもあります。

安彦 なんて言っても井上さんだもんね。原さんのところは、すぐ見えるところにアシスタントがいるの?

原 はい、近くに最大で8人います。

安彦 8人! それは凄いね。僕は筆でやっているから、アシスタントを雇えないんですよ。

原 難しいところですね。

安彦 原さんのところはアナログですよね。今もフルアナログですか。

原 フルアナログですね。なので、アシスタントにもアナログで描いてもらっています。

安彦 今回『キングダム』を読み返して、もしかしたらフルアナログかなと思いましたが、本当にとは…。何のペンを使って描いているんですか。

原 Gペンと丸ペンを使っていますが、どちらかと言うと丸ペンが多いかもですね。最近は細かいところはミリペンもちょっと使うようになりました。

安彦 やっぱりアナログにこだわりがあるんですか。

原 はい。アナログの方がほぼいない今だからこそ、余計こだわったほうがいいなと最近思ってきています。

安彦 アナログはもう絶滅危惧種ですよね。でも、アナログいいですよね。手先仕事の巧さも拙さもそのまま出る。そして、なによりも原稿が残る。ナマの原稿が残ると「原画展」が出来る(笑)。

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【才能が輩出される職場】

安彦 最近知って面白かったのは、水木しげるさんがアシスタントを物凄く巧みに使われていたことです。てっきり一人で黙々と作業する方だと思っていたけど、真逆で人使いに長けた方だったらしい。実際、つげ義春さんや池上遼一さんら有名漫画家が輩出されています。

原 そうなんですか、知らなかった。

安彦 ええ。人使いが上手くて、色々な才能を自分のところから輩出する。それはやっぱり人望ですよね。

――それで言うと、原先生の職場からも沢山の漫画家が輩出されています。

安彦 それは、やっぱり原さんの人望ですよ。「こいつデビューさせたいな」とやっぱり思いますか。

原 基本的に、僕はみんなに対してデビューさせたいと思っています。「うちは就職の場ではなく、デビューするための修業の場だ」と常に言っているので。

安彦 デビューする弟子が沢山いらっしゃるということは、しっかり技を身につけているわけですね。

原 そうですね。あと、(アシスタントが描いた)ネームを僕が見てアドバイスをすることもあるので、話作りの方も見ています。

安彦 良い先生だ。アシスタントの中で割り振りとかは決めているんですか?背景専門の人みたいな。

原 いえ、なるべくみんな一緒のことをやってもらっています。というのも、一つに特化するより、全部できるようにした方がプロになりやすいと思っていて。井上先生の職場がそのシステムだったので、それを継いでいるんですけど。

安彦 にしても、本当によくここまで背景を描き込めるなと思います。

原 あれでも抑えているんです。うまくなってくるとみんな描き込み過ぎるんですよ。なので、その時は「背景じゃなくてキャラクターがメインだから、そこまで主張しないで」といったことを指示します。

安彦 あれでも抑えていたんだ。それは聞かないと分からなかったな。あと、原さんは相当自分で描く方でしょう。

原 はい、基本ずっと描いています。特にキャラクターは僕が全部描いています。甲冑や豆粒くらいちっちゃい人物はアシスタントに描いてもらいますけど。表情が少しでもある人物は自分で描きます。

安彦 目だけとかじゃなくて。

原 はい、全部描いています。

安彦 けど、アシスタントから「このキャラ描きてぇ」って雰囲気とか結構感じるでしょう。

原 やっぱり上手いアシスタントは、手とかを描き出すことがたまにあります。けど、手にも表情が出るじゃないですか。形であったり力具合だったりで。やっぱり他人が描くと違うんですよね。結局、描いてきても、僕が消して描き直すというのを繰り返しています。

安彦 渡さない先生ですか(笑)。

原 なので時間がかかるんです。結局アシスタントが増えても、僕が描く量は変わらないので。

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【作った物語を100%伝えたい】

 

安彦 けどそれだけ自分で描かれているというのは、根っから描くのが好きなんでしょう。

原 僕は絵を描くのが好きというよりも、物語を考えるのが本当に好きなんですよね。だから、作った物語を100%伝えたいということで、自分で描いています。描くのは正直つらいです。ずーっと描いていますから。

安彦 ネームや下書きを描いて、ほぼ出来ているからいいやとは思わないですか。

原 どうしても気になっちゃいますね。結局、全ての人物を描いちゃう。

安彦 それはやっぱり好きなんですよ、愛情が深いんです。

原 愛情は深いかもしれない。

安彦 僕はそういう人、好きですね。浦沢直樹さんと『漫勉』の収録で喋ったときに面白いと思ったのは、浦沢さんも自分で描く方なんですよね。さすがに、ベタとかはアシスタントに任せるんだけど、アシスタントに渡すのが「悔しい」って言うんですよ。

原 そうですか。

安彦 本当は渡したくない、自分で塗りたいんだって。キャラを描くのとは違うかもしれないけど、「浦沢さんはやっぱり描くのが好きなんだな」と思った。原さんも、自分でキャラを全て描くというのは、結局描くのが好きなんですよ。僕はそういう人が凄く好きですね。

 

【安彦先生が『史記』を読んでみたら…】

 

安彦 今回対談にあたって、『キングダム 完全版』*1を読みました。これ、全話に(原先生自身による)解説が付いていて凄いね。解説を読んで、なるほどと思うことが沢山ありました。そもそも、『キングダム』は大ヒット作品だから、成功物語だと思っていたのに、アンケートの厳しい時期が続いたんですね。

原 そうです。序盤は本当に打切り候補だったので。

安彦 初め厳しかったというのは以前聞いていたのですが、序盤の数話程度だと思っていたんです。けど、これを読むと一年以上は低空飛行だったんですね。

原 一年間、本当に危なかったです。

安彦 解説を読んで、「これがプロ意識だな」って思いました。「こういう風にやってみた」、「こういう風に変えてみよう」って人気を出すために毎回工夫されていますよね。

原 僕はめちゃくちゃ考えて描いていますね。

安彦 やっぱり売れる人は違う。

原 そうするしかなかったというのが正しいんですけど…。プロの世界に入ると、絵が上手い方は山ほどいるので、どこで勝負するんだってなると「もう考えるしかない」って。「誰よりも考えて描こう」というのは最初から思っていました。

安彦 工夫の軌跡を知り、本当に頭が下がりました。あと、今回の対談に向けて準備していたら、『史記』が家にあったんですよ。ただ、本棚の奥に突っ込んだまんまで、ほとんど開いてすらいなかったんですが。

原 そうですか。

安彦 ええ。お話するにあたって『史記』も読んでみたんです。『史記』の全体から見ると、始皇帝の部分の記述って意外とないんですね。

原 そうです、全然ないです。

安彦 「えっ?」と思うぐらいないですよね。

原 はい。『史記』には、点しか書かれていないですからね。「ここで勝った、誰が死んだ」というぐらい。

安彦 ね。李信だってほとんど…。

原 出てこないです。

安彦 出てこないですよね。それでも、『史記』の中からあの部分を描こうと思ったのはなぜですか。

原 李信が情報として載っているのは、若くして大将軍になったということと、攻めるときに大失敗したということ。けど、失敗した後に殺されていないんです。始皇帝ってひどい人というイメージだったのですが、李信は斬首になってない。それを知って、僕は李信と嬴政(始皇帝)の間には友情のようなものがあったのかなと読み解きました。李信は若い将軍で、嬴政も若いので。それで、彼らをメインにして物語を作れるのではないかと考えました。

安彦 なるほど。てっきり、原典があるのだと思っていたんです。そしたら『史記』には何も書かれていなかった(笑)。

原 あとは、自由に合戦ものを描きたかったんですよね。日本の歴史だとある程度知られているので、自由にドラマを作ろうとしても嘘っぱちと言われてしまう。それで悩んでいる時『史記』に出会ったんです。春秋戦国時代については多くの人は知らないし、武将も知られていない。ただ、名前はちゃんと書かれているので、じゃあ春秋戦国時代を舞台にして自由にやろうと思ったんです。

安彦 そういう経緯があったんですね。

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【合戦ものの魅力】

 

原 でも、合戦ものをやりたいと思った理由を考えると、子供の頃に安彦先生が監督した劇場版『アリオン』(1986)を映画館で観たのがきっかけなんです。そこで古代スペクタクルに触れて、すごく印象的でした。河了貂の「男の子に化けているフリをしている女の子」という設定は、(『アリオン』に登場した)セネカがベースだなと今になって思ったりします。『アリオン』には本当に衝撃を受けたし、影響もだいぶ受けていると思います。

安彦 あれも、ギリシア神話を参照はしているけど、ほとんど創作なんですよね。アリオン自身も僕の勝手な解釈で。

原 なるほど。

安彦 呉茂一さんの『ギリシア神話』を読んだときに、結構いろんな説があるって書いてあったんです。色んな説があるなら創作もあっていいだろうと、開き直っちゃったんです。

原 僕は『アリオン』のパンフレットを買ってずっと眺めていました。小学生ぐらいだったので、ギリシア神話の名前も有名なところしか分からない。だから逆に人物相関図を見ながら「これとこれが兄弟なんだ」とか考えるのが楽しくて。そして、そこからまた観直すのもさらに楽しかったんです。
 その経験があって、『キングダム』を考えた時も、うまくいけば何も知らない人でもちょっとずつ覚えていって、何度も読み返してもらえるんじゃないかと思ったんですよね。

――ある意味で、『キングダム』の合戦ものとしての側面は安彦先生に原点があるのですね。

原 合戦ものって、他ではほとんどないんじゃないですかね。時代劇はありますが、合戦ものはやっぱりコストが高くかかるので。

安彦 大河ドラマとかになるよね。ただ、テレビの大作合戦ものとかを観ると、エキストラの使い方が勿体ないって思う。合戦シーンでエキストラが隊列組んで行くときに、群衆のケツまで見せちゃうんですよね。すると、「エキストラがここまでなんだ」ってはっきり分かっちゃう。対照的に、黒澤明はその辺上手いですよね。いかにもいっぱいいるように見せる。

原 分かります。僕は「モブは必ず端まで描け」って言います。見切れるところまで描かないと多く見えないからって。普通途中でやめちゃうんですよね。

安彦 しかも、『キングダム』の場合は俯瞰で描きますよね。これは描くのは本当に大変だろうなって。

原 漫画のいいところは、描けばいいので(笑)。描けば良いのだから、こっちの勝ちだと思っていっぱい描くんです。

安彦 そうなんだけど(笑)。さらに、週刊雑誌だから時間をかけて描くこともできないでしょう。

原 そうですね。大きいコマでも一、二日で絶対終わらせないと間に合わないですね。

安彦 本当に凄いね。

原 安彦先生は合戦ものの映画とかは幼少期に観ましたか。

安彦 僕の時代は、そもそも映画を簡単に観ることのできる環境じゃなかったので、ほとんど観ていないです。

原 僕は片っ端から観るようにしていました。子供の頃、ハリウッドが合戦ものの映画をやり出していたので、一個も見逃さないように。

安彦 観ればうきうきして喜んだと思うんだけど、とにかく映画館に行くこと自体が僕の時代は稀だったから。ほとんど接してないんです。そんな環境の中でハマったのは、小学校三年生ぐらいのときに読んだ『織田信長』というマンガです。そのマンガから歴史の面白さも感じました、

原 すごく昔のマンガですか。

安彦 はい、僕が小学生の頃に出た作品です。僕がマンガを描き始めたのは、これのまねごとをして描いたのが最初なんですよ。

原 そうなのですね。

安彦 その話をインタビューでしていたら、現物を見つけてくれた人がいました。仕事場に現物があるので、そろそろ仕事場に行きましょうか。

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【安彦先生の仕事場へ】

 

tonarinoyj安彦先生の仕事場。沢山の本が並べられている。

 

tonarinoyj小学生の頃に愛読していた『織田信長』(鈴木光明)を原先生に見せる安彦先生。

 

tonarinoyj原先生が子供の頃に衝撃を受けた『アリオン』のポスター前で。

 

原 安彦先生はカラーを何で描かれていますか?

安彦 こちらにあるガッシュですね。原さんは何で描かれているんですか?

原 僕はカラーインクです。ガッシュも一回トライしたんですけど、難しかったです。カラーインクは、重ね塗りはできないんですけど、仕上がりが一番早くて発色が良かったんです。

安彦 退色はしますか。

原 日にあたるとダメになるので暗闇で保管しています。

安彦 ガッシュやアクリルは暗闇じゃなくても退色しないんですよね。ただ、アクリルは試したことがあるんだけど、僕は全然ダメだった。

原 僕も最初はアクリルでした。『キングダム』の1巻~10巻辺りまではアクリルです。ただ、どうしても時間がかかるので悩んでいたら、井上先生がカラーインクを使っていたのでそちらに変えました。あとは肌色を塗るときにはコピックもたまに使います。

安彦 カラーを描くやり方も本当に人それぞれですよね。

 

tonarinoyj安彦先生は主に、カラーを描く際は「ホルベイン ガッシュ水彩」(不透明水彩絵具)を使用している。

 

【時代考証の罠】

 

――この辺りの書類が『銀色の路―半田銀山異聞―』(以下、『銀色の路』)の資料ですかね。

安彦 はい、福島の人が資料をくれるんですよ。

――地元の方々の協力が凄いですよね。

原 (『銀色の路』に登場する)早田家は実在するんですか?

安彦 実在なんです。

原 あっ、そうなんですね。百合子さんもですか?

安彦 百合子さんも実在の方です。ただ、おばあちゃんになった頃の写真はあるのですが、若い頃の写真はないので、想像して描いています(笑)。また、五代との話なんかも想像の部分が大きいです。

原 なるほど。

 

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安彦 『キングダム』は時代考証に関してはどれくらいするんですか。

原 時代考証に関しては、元々は突き詰めようとしていたんですけど、今はこだわり過ぎないようにしています。古過ぎて資料があんまりそろわないですし、読者にとってはあまり意味がないので、そこにエネルギーを消費するよりはエンタメを作ることに注力しようと。
 そこに気付いてからは、逆に中国っぽくない衣装とかを描くようにしています。甲冑だったりとか。

安彦 僕も、時代考証は結構厄介なんじゃないかとも思うんです。例えば、アニメや漫画で馬に乗せると、「あの時代、馬はいない」とかよく言われるんです。でも、エンターテインメントなので、馬に乗らないとかっこつかない。

原 本当にそうです。僕も合戦物をやっている訳ですが、見せ場で大将同士の一騎打ちになることが多いんです。その時、やっぱり映えるので騎馬戦にするのですが、冷静に考えれば真っ先に馬が狙われると分かってはいるんです。けど、そうすると歩兵戦ばっかりになるので、作品としてはつまらなくなる。だから、敢えて分かりながらも、エンターテインメントとしての面白さを優先しています。

安彦 うんうん。



【『銀色の路』連載のきっかけ】

 

――仕事場を後にして

原 そもそも安彦先生は今回なぜ「ヤンジャン」で連載をすることになったのでしょうか。

安彦 これはもう現担当編集に声を掛けられたのがきっかけです。最初の接点はインタビューでしたよね。

――はい。YJ45周年を記念して2024年にインタビューをさせて頂きました。

安彦 今まで集英社とは何のご縁もなかったんだけど、たしかインタビューの後に「福島を舞台に短いものを描く」というのを聞きつけて、「じゃあ、うちで描きませんか」と言ってきたんでしたっけ。

――そうですね。概ねそのような流れでした。

原 それは、銀山の話を描かれようとしていたけど、「どの雑誌で連載するか」は決まっていない状態だったということでしょうか。

安彦 実は、元々福島の町から(町役場の発行する)小冊子所収の漫画を依頼されていたんです。福島で「安彦良和/機動戦士ガンダム THE ORIGIN展」の巡回があり、その時に出会ったガンダムファンの町長に短いものを描くよう頼まれて。それを考えている時に、現担当編集から電話で「ヤンジャンで何かやりませんか」という話が出たので、町の人も連載の方が喜ぶと思ってヤンジャンに持っていきました。実際、町の人に連載の話を伝えたら、喜んでくれました。『銀色の路』の連載が決まってからは、冗談で「喜寿で集英社デビュー。『キングダム』と同じ雑誌だぜ」と周りに言っていました(笑)。

原 (『銀色の路』が連載決定した)当時担当編集と電話で打ち合わせをしていて、「安彦先生がヤンジャンで描きますよ」と言われて、びっくりしました。「えっ、あの安彦先生?」と三回ぐらい聞き直して。「何か企画物の読み切りですか」と聞いたら、「連載」と言われたんで、「えっ、本当ですか」と言って。すごく嬉しかったです。

安彦 軒先で雨宿りをさせていただくという感じなんだけど。

原 本当にうれしかったです。

安彦 ただ、その後に町の人から「ところで、うちの方はどうなっていますか」と言われて。「発展的解消じゃない?」と言ったんだけど、そちらの話も生きていたという(笑)。そのような経緯もあり、小冊子所収の作品も描きました。そっちは同じ銀山を舞台にしつつも、僕の先祖に焦点を当てた内容にしています。

原 それもちゃんと描かれたんですか。

安彦 ええ。

 

tonarinoyj安彦先生による『銀色の路』のアナザーストーリーである『半田銀山 昔語り』。
福島県桑折町限定での販売でしたが、本日3月19日(木)より東京の書泉株式会社の書店での販売が開始!
 是非両ストーリーともお楽しみください!
販売詳細については、書泉ホームページをご確認ください。

書泉HP


原 では、福島の町から依頼を受けて調べ始めたということなんでしょうか。元々銀山に興味を持っておられたというよりは。

安彦 全然興味なかった。

原 そうなんですね。

安彦 それで、福島の方に「資料をください」みたいなやり取りをして。

原 福島の方からの発信なのですね。

――(『銀色の路』の主人公である)五代友厚に関する関心は元々あったんですか。

安彦 全然なかった。とにかく、教科書に出てくる悪い商人というイメージだけ。悪名高い開拓使官有物払い下げ事件ってやつですね。

原 教科書に出ていたんですね。全然知らなかったです。

安彦 ほとんど欄外ですよ。印象が悪いから僕は覚えていたんです。ただ、最近テレビドラマや映画に登場したりでメジャーになってきたようです。最初は「あの五代が?なんで?」って感じだったんだけど、色々調べると悪い人じゃなさそうだって分かった。「払い下げ事件」も或る新聞の誤報で、それが政局に利用されたらしい。でも五代自身は一切弁明もせずに借金を残して死んでいる。蓄財とか自己保身を考えない人だったみたいね。薩摩人で有力者の知り合いも多いけど、そういうコネを「悪いつきあい」にしない。鉱山経営も当時としては良心的にやっています。戊辰戦争から何年も経ってない時期に、ムズかしいことだったと思うんだけど。「東の渋沢、西の五代」って言われたそうだね。渋沢栄一はお札になって「五代は悪者」じゃ可哀想すぎると思って段々興味が沸いてきました。

原 そうだったんですね。


【アニメ映画への再挑戦!?】


――原先生は普段何を中心にインプットされていますか。

原 映画は努めて観るようにしていますけどね。ただ、なるべく映画館に行こうとしていますけど、なかなか時間もなくて。

――昔から映画が一番インプットの中で多いと。

原 変わらずそればかりかもしれない。

――アニメ映画監督を考えた時期はなかったのでしょうか。

原 あります。僕は漫画家になる前に映画監督になりたかったし、今も『キングダム』が終わったら映画の方に行けたらなという思い自体はあります。畑がちょっと近いのは、勝手にですがアニメの監督かなとかうっすら思っているんですけど…。

安彦 ただ、アニメの監督は、スタッフが描いて机に積もった大量の絵と格闘するのがほとんどで、あんまり快感はないんじゃないかな。

原 そうなんですか。

安彦 ええ。紙も溜まるし、ストレスも溜まるしで(笑)。

原 でも、映画館で公開されるというのはやっぱり特別な感じがあるんじゃないですか。

安彦 確かに、公開のときには「やったな」って感じがあります。特にお客さんが来てくれたりすると、「ああ、やって良かったな」と思います。その点はいいかもしれない。

――安彦先生はまたアニメ映画に挑戦しようという気はありますか。

安彦 実はアニメ映画をもう一本ぐらいやろうかと考えているんです。

原 えっ、本当ですか。

安彦 幸いまだやる元気があるんで。

原 それはすごい。

安彦 アニメ復帰に関しては、今までも話が二転三転しちゃっているんです。「アニメはやめたけど、『ガンダム』限定でやるよ」と言って、2022年に『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』を監督しました。ただ、今は『ガンダム』限定という枠を外してやってみようかなという気がしている。

原 それはオリジナルですか?

安彦 いや、完全オリジナルはできないですね。『ガンダム』とは別のものを基にして何か一本やりたいと思っています。

原 すごい。

――最後に原先生にも、今後のビジョンを伺いたいです。とはいえ、まずは目の前の『キングダム』完結でしょうか。

原 そうです。

安彦 いつ頃までに完結の予定なんですか。

原 あと五年で終わりたいと思っていますけど…。

安彦 完結したら、違う作品をやりたいという気持ちはあるんですか。

原 はい。むしろ、違うのにも挑戦したいので早く完結させたいという感じです。もちろん、『キングダム』には思い入れがあるので、しっかりと描き切りたいですが。

――こういうジャンルをやりたいとかはあるんですか。

原 いつも言っているんですけど、一個はやっぱり『ガンダム』が好き過ぎるので、『ガンダム』を超えるような作品を目指したいですね、「宇宙もの」で。

安彦 なるほど、そっちの方向性なのですね。

原 はい。アニメでやりたいです。

安彦 アニメで。

原 はい。

安彦 原さんは今50歳ですか。

原 はい。(2025年の)6月で50歳になりました。

安彦 50歳を過ぎたら月日が早いですよ。まごまごしていると、どんどん五年、十年たっちゃう。

原 それは困りますね。

安彦 やりたいことがあったら、早めにおやりになったほうがいいかもしれない。

原 確かに…。本日は楽しかったです。ありがとうございました。

安彦 こちらこそ、ありがとうございました。


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『銀色の路―半田銀山異聞―』最終回は本日発売のヤングジャンプ16号にて掲載中!

『銀色の路―半田銀山異聞―』上下巻(完結)は5月に同時刊行予定!

『キングダム』最新第79巻も5月刊行予定!

 

*1:コミックス累計1億部突破を記念して刊行された『キングダム』の完全版。完全版1冊につき、コミックス2巻分を収録。大きい判型、真っ白い紙という豪華仕様。さらに、安彦先生も驚いた原先生による全話解説が付いている。現在、全20冊(YJC40巻分)が発売中。