YJ×怪談師インタビュー vol.3 牛抱せん夏

YJ×怪談師インタビューvol.2
撮影◎石川耕三 ヘアメイク◎小林依里香(エムズアップ)

YJ×怪談師特集、第3弾に登場するのは牛抱せん夏さん。「怪談ライブバー」で働く牛抱さんの、とっておきの怖い話とは…?

 

牛抱せん夏(うしだき せんか)

怪談師、役者。「怪談ライブバー スリラーナイト」にて、日々身の毛もよだつ怪談を披露している。

 

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――まず、怪談を始めたきっかけを教えてください。

牛抱 私、実は役者もやっているんですが、とあるホラー映画に出たとき、そこの特殊メイクの方から怪談のオーディションに出てみないかと誘われたんです。そのとき初めて怪談というものに挑戦しました。うちは母方の家系に不思議な体験をする人が多くって、ネタには困らなかったんです。オーディションでは無事に優勝できたんですが、最初は役者活動の一環としてやってみようぐらいの気持ちでした。

――そうだったんですね。親族の方の不思議な体験談というのは、例えばどういうものがあるんですか?

牛抱 例えば亡くなった叔母が家に帰ってきた話とか。祖母の体験談なんですが、家にいると毎晩、足音やドアを開ける音が聞こえてくるらしいんです。最初のうちは、何が来ているのかはわからなくって、毎晩おびえていたそうです。でもあるとき、いつもと同じようにやっぱり音が聞こえてくるので廊下に出てみたら、その廊下の上にはだしの足跡が浮き上がるのが見えたって言うんです。それが玄関のところですっと消えて、戸が開く音と、「ただいま」っていう声が聞こえた時に、「あ、娘が帰ってきたんだ」って思ったそうなんです。

――不思議ですけど、ちょっといい話ですね。怖い話は昔から好きだったんですか?

牛抱 そうですね。めちゃくちゃ怖がりではあるんですが(笑)。怪談だと古典が好きなんです。例えば「四谷怪談」(よつやかいだん)。怖いだけじゃなくて、すごく美しいと思います。

――古典をライブで語ったりはしているんですか?

牛抱 やっています。「牡丹灯籠」(ぼたんどうろう)とか、「皿屋敷」(さらやしき)とか、「真景累ヶ淵」(しんけいかさねがふち)とか。ただ、「四谷怪談」はもうちょっと勉強してからかな。いつか「四谷怪談」を語りでやるのが夢です。

――ちなみに普通の怪談を話す時と古典の怪談を話す時では、何か語り方に違いは出たりするんですか?

牛抱 その時代の口調は意識します。あとは、江戸弁とかを勉強する必要もありますね。私たち怪談師って、落語家とか講談師と違って師匠がいないんですよ。だから、自分たちで勉強しないといけない。師匠がいないというのは本当に不利ですね。特に古典をやるとなると完全に独学なので、落語家さんとかから見ると少し稚拙に見えてしまう可能性もあります。なので、落語とも講談とも違う、怪談師ならではの戦い方をしていく必要があると思います。

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――なるほど。ところで、牛抱さんは歌舞伎町にある「怪談ライブバー スリラーナイト」というお店で働かれていますよね。いま取材しているこの場所がまさにそうなんですが、お店の説明をお願いしてもいいですか?

牛抱 はい。1時間に1本、15分間の怪談ライブが聞けるバーです。私は働き始めて2年目になります。

――お店で話すことによって生じるメリットってあったりしますか?

牛抱 毎日ステージに立てるのは魅力ですね。しかも、毎回お客さんが違うから、当然反応も違ってきます。同じ話をしても、ものすごく怖がる人もいれば、反応がない人もいる。それを受けて、どうしてその反応の差が生まれたのかを、よく考えるんです。実戦経験を積みつつ、分析ができるというのはありがたいですね。他にも怪談初心者さんたちがよく来るというのは、お店のいい点だと思います。新規の方たちの反応を見るのは単純に新鮮なので。あと、お客さんが逆に怖い話を教えてくれることもありますね。それにも傾向があって、なかなか話したがらない人や、自分の体験をほとんど忘れている人のほうが、面白い話を持っていることが多いです。

――なるほど。では、取材は主にお客さんから?

牛抱 いえ、手段は他にも色々あります。美容室に行った時とか、タクシーに乗った時とか。飲みに行ったお店のマスターに聞くこともあります。

――タクシーの運転手さんとかは、確かに持ってそうですね。ちなみに、怪談を特に聞き出しやすい職業ってあるんですか?

牛抱 夜のお仕事をされている人は、怪談を持っている人が多い印象があります。あと、システムエンジニアさん。

――システムエンジニア? 意外ですね。あまり結びつかないというか…。

牛抱 そう思いますよね。でも、本当に多いですよ。内容も現代怪談っぽいというか、今の時代に沿ったお話で。

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――何か特に印象に残っているお話ありますか?

牛抱 あるシステムエンジニアさんから聞いた話なんですけど、その方の職場の同僚が、ある時からちょっと精神を病んでしまったそうなんです。とても真面目な方だったらしく、毎日、「今日は休みますけど、明日は必ず行きますんで」っていう電話をかけてくる。それが一週間ぐらい続いたんですが、ある日を境にぱったり電話が来なくなった。そのすぐ後に、その方のお母さんが会社にやってきて、こう言ったそうです。「息子が亡くなりました」って。いつ亡くなったのか聞いたら、もう一週間も前だそうなんです。でも、おかしいんですよ。それだと、既に亡くなった人から毎日電話がかかってきていたことになるんです。

――えーっ!

牛抱 しかも、それで終わりじゃないんです。お通夜の日にも、亡くなったはずのその方からまた電話がかかってくる。しかも、今度は電話が切れた後に会社にやって来たそうなんです。それを職場の全員が目撃している。彼は自分のデスクについて、「明日は必ず行きますんで」ってぶつぶつ呟いていたそうです。それで、すっと消えてしまった。

――全員が見ているっていうのが怖いですよね…。

牛抱 そうなんです。でも、職場の人たち全員がその光景をなかったことにしようと思ったみたいで、途中からみんな仕事に戻ったっていうんですよ。

――えっ。目に入れたくなかったんですかね。

牛抱 そうですね。そうこうしているうちに消えちゃったそうです。

――霊感がない人にも、見えることがあるんですね。そういえば、牛抱さんは見えたりするんですか?

牛抱 今は全く見えません。でも、小さい頃はたまにありました。ただ、では心霊現象をすべて肯定しているのかと言われると、そういうわけではありません。100パーセント信じちゃうと、この職業は多分できないと思うので。

――なるほど。ある程度、冷静な目も必要ですもんね。霊感があった時期は、どういうものを見たりしたんですか?

牛抱 例えば、黒い煙の塊だとか、手首だけとか。そういうのが多いです。白装束着てとか、髪が長くてとか、そういうのはまずないですね。

――それでも十分怖いですね…。では次に、今後どういった活動展開をしていきたいかを教えてください。

tonarinoyj

牛抱 最初のほうにも少し話しましたが、古典のお話をいろんな方に知ってもらいたいですね。落語とか歌舞伎とか講談もそうですが、日本の文化って継ぐ人はもちろん、見る人がいないとどんどん廃れていっちゃうんですね。だから、多くの人に何とか興味を持ってもらいたい。こんな面白い話、いっぱいあるよっていうのを知ってほしい。だから、私は実話怪談師でありながら、古典怪談も現代風な口調でわかりやすくやります。それを聞いて「あ、こんな面白い話なんだ。じゃあ落語や歌舞伎にも行ってみようかな」と思ってもらえれば理想です。伝統的な文化を繋いでいく役割ができたら嬉しいですね。

――なるほど。とはいえ、古典怪談を難しそうと思う人も少なくないと思います。なので、最後にそういう方たちに向けた古典怪談のアピールポイントを教えてください。

牛抱 とにかく、思っているほど難しくないよってことは伝えたいです。古典で語られている内容って、現代人でも理解できるものなんです。例えば「牡丹灯籠」は現代のラブストーリーと全く同じ。そこで描かれている恋心にも、きっと共感できるはずです。とにかく、1作でもいいから触れてみてほしいです!

――ありがとうございました!

 

牛抱せん夏さんの働く「怪談ライブバー スリラーナイト歌舞伎町」の情報はこちらをチェック!
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