YJ×怪談師特集、第2弾に登場するのは吉田悠軌さん。全国各地にある「怪談の現場」とは?吉田さんがゾッとした話とは?怖いけど魅力的な怪談について聞いてきました!
吉田悠軌(よしだ ゆうき)
作家としても活躍する怪談師。怪談の収集はもちろん、国内外の怪奇スポットを取材する活動にも精力的に取り組んでいる。代表作に「一行怪談」(PHP研究所)、「日めくり怪談」(集英社)、「うわさの怪談 異世界への扉は、すぐそこにある。」(三笠書房)などがある。
――最初に怪談を始めたきっかけを教えてください。
吉田 就職活動にことごとく失敗してしまい、どうしようかなと思っていた時期に稲川淳二さんのライブを見に行ったんです。それをきっかけに怪談の面白さに気づき、自分でもやってみることにしました。だから、本格的に始めたのは大学を卒業してからですね。
――それ以前は怪談に対する興味はなかったんですか?
吉田 いえ、怪談マニアでこそありませんでしたが、多少の興味はあったと思います。原体験は、小さい頃に聞いたおばあちゃんの話ですかね。色々な話をしてもらったんですが、その中に怖い話があったのを覚えています。あとは、中学校のスキー教室での経験もそうですね。夜中、寝る前に集まって怖い話をすることになったとき、私の話がものすごくウケたんですよ。みんな悲鳴をあげて、女子はすごく泣いちゃって、僕がその後一言でも話そうものなら「もう、やめて」みたいな感じになって。それがすごく快感だったんですね。
――そうだったんですね。もともと怪談でお金を稼ぎたいと思って始めたんですか?
吉田 いや、それは全く思ってないです。そもそも当時だと、稲川淳二さん、桜金造さん、つまみ枝豆さんあたりは怪談をやっていましたけど、今のように全くタレントでもない人が怪談をやることは基本的になかったんです。だから、怪談で稼ぐなんていう発想も当然ありませんでした。初めのうちは怪談をするためのサークルを作って、友達同士で飲みながら話しているだけでした。
――サークルまで作ったんですね!
吉田 普通の飲み会で怪談やろうよなんて言うと、すごくみんなから嫌がられたので。今は怪談が多少メジャーになってきていますけど、昔はあまり趣味として認められていなかったんです。だから、怖い話だけの飲み会というのは、当時としては夢のような空間でしたね。
――なるほど。ところで、吉田さんは怪談の現場を巡る本も出されていますよね。聞いた話の現場に行くというのは重視していることなんですか?
吉田 怪談って現実からほんの少し離れた場所にあるジャンルじゃないですか。だからエビデンスなしで何でもかんでも好き勝手に書くと、あまりにも日常と距離が遠くなってしまって面白くない。現実と少しだけ重なっていないと無意味になってしまうので、そのとっかかりとして現場に行くようにはしていますね。あと、不思議な体験談って、捉え方によってはUFOの話にでも、幽霊の話にでも、妖怪の話にでも解釈できるんですよ。視点のとり方によって、どのジャンルにもなってしまう。つまり、バイアスがかからない情報というのは、その人の体験談そのものと、それが起きた場所だけなんです。これは怪談から離れたオカルト全般の取材にしても同じです。
――実際に行った怪談の現場で印象に残っている場所を教えてほしいです…!
吉田 例えばH霊園という場所の近くにある電話ボックスとか。おそらく近所に高齢者の方が多いからだと思うんですけど、携帯がこれだけ普及している現在でも残っているんですね。そこはもともと有名な心霊スポットで、テレビの取材で来た霊能者の人が言うには、すごく首の長い女が中で電話をかけているらしい。そして外では、ボックスの周りを赤ん坊がぐるぐるとはいずり回っている。
――その女性の子供ということなんでしょうか。
吉田 どうなんですかね。赤ん坊がボックスの中に入れずに、ずっと周りをうろうろしているというのが不気味ですよね。
――ちなみに、何かご自身でそういう体験をされたこととかはあるんですか。
吉田 ないんですよ。基本的に私は霊感がない、見えない人間なので。怪談をやっている人はわりと両極端ですね。日常的に霊が見えるという自分の体験談を話す人か、もしくは全く見えないかのどっちかです。絶対数としては、霊感はない人が多いですね。そうでないと、多分きついというか、やっていられないです。こんなジャンルの仕事は。
――普段、話を集めるための取材はどのように行っているんですか?
吉田 とにかく人づて、友達の友達とかに聞きます。でも、それは全部あさり尽くしちゃったので、最近はSNSとかでも募集していますね。メールをまずもらって、会えるんだったら直接会う。とはいえ例えば相手が遠方の人だった場合、取材のためだけに来てもらうわけにもいかないので、スカイプやラインでネット通話をします。そういう意味では、昔と比べると取材は大分しやすくなりましたね。あとは、「吉田悠軌のオカルトラジオ 僕は怖くない」というネットラジオをやっているので、そこのリスナーから集めることもあります。まずお便りで体験した怪談を送ってもらって、追加取材したいとなったら直接コンタクトをとります。いずれにせよ、ディテールを聞かなきゃいけないので、最終的には直接会って取材をする必要はありますね。
――かなりの数の取材をやられているので難しいとは思うんですが、印象に残っている取材はあったりしますか。
吉田 やっぱり取材中に変なことが起こるというのは時々ありますね。例えば以前、スカイプで話を聞いていた時に、突然電話の向こうから大きな落下音が聞こえてきたんです。ドンガラガッシャーン、みたいな。こっちとしてはビビるじゃないですか。相手にどうしたんですかと聞いても、大丈夫です、大丈夫ですと繰り返すだけなんですよね。それでもしつこく聞いたら、どうも壁にたてつけてあった神棚が落下して、上に乗っかっているものとかが全部床にたたきつけられた音だったそうなんです。で、ちょうどその時取材していたのが神棚にまつわる話だったんですよ。
――え? 神棚の怪談を聞いている時、神棚が落ちたんですか?
吉田 はい。ブードゥー人形がいきなり送られてきて、怖いから神棚に置いたところ祟りじみた現象が連続したという話でした。まさにその神棚が、取材中にいきなり崩れたんです。こっちとしては驚いたんですけど、向こうは意外と普通の反応で…。どうやら、神棚にまつわる変なことが起きるのは日常茶飯事だったらしいんですね。
――むちゃくちゃ怖いですね…。
吉田 そうですね。ただ、やっぱり仕事にしちゃうとダメというか、素直に怖がれなくなりますね。ネタになるからおいしいという発想になってしまう。始めた頃のほうが、もっと純粋に怖がっていたし、楽しんでいたかもしれないですね。
――職業病ですね。そんな吉田さんでも、これは特に怖かったという話ってあったりしますか。
吉田 話そのものにランクづけをするのは難しいんですが、必ず決まったパターンがある話にはゾッとします。例えば家を建てるなりで土地にあった井戸を潰す時、通例となっている宗教的な儀式を行わないまま埋めてしまったことで、その家の人間が酷い目に合う話ってのがすごく多いんですよね。しかも、そこに一定の法則が存在する。まず、お父さんが浮気をして家に帰らなくなり、次にお母さんが変な宗教、あるいはマルチ商法にはまる。それから家がだんだんごみ屋敷になっていき、子供が寄りつかなくなって、最終的に火が原因の事故が起きるんです。家が焼けるとか、旅行先で火事にあって死ぬとか。これは私が集めた怪談だけじゃなくて、他の人が集めた怪談も大体そのパターンです。
――そういう共通の流れに沿った話を、色々な人から聞くということですね。
吉田 はい。体験者さん同士には、全く縁もゆかりもないです。しかも、今話したパターンが常識としてあるわけでもない。例えば貞子が井戸から出てくるみたいな、日本人なら全員が持っているイメージだったら共通するのはわかります。でも、そうではない。私が言うまでそんなパターンがあるって知らなかったですよね。本来、怪談というのは一定の条件下で再現可能なものではないはずなんですが…。
――ありがとうございます。最後に今後どういった活動展開をしていきたいか教えてください。
吉田 今までどおり色々な人から怪談を聞くことは続けていきますけど、都市伝説のほうにも手を伸ばしたいですね。実話怪談とかオカルトの調査スキルで都市伝説を調べていけば新しい発見があるだろうし、意義もあるかなと思いますね。
――貴重なお話をありがとうございました!
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『日めくり怪談』 吉田悠軌 著
集英社 定価 本体1200円+税
●内容紹介
1日1話、5分読むだけで味わえる恐怖体験。
『一行怪談』で知られる著者による書き下ろし怪談、全62話を収録。