
『九龍ジェネリックロマンス』第1巻発売記念!
眉月じゅん×杉田智和 特別対談!!
――本日はお集まりいただき、ありがとうございます。それぞれ異なる分野のクリエイターとして、興味のある事柄を話していただければと思います。

眉月 いきなりなんですが、杉田さんっていつから声優さんになりたかったんですか?
杉田 僕の中で「どうやったら二次元に関われるんだろう」と考えた時、何か作ろうにも絵は描けないし、ゲームのプログラムも分からない。じゃあどうしたら良いんだと思っていたら、一時期から“しゃべるゲーム”が世の中に出てきたんです。そこで「この音声って枠に入り込めないかな?」と思ったのが始まりでした。
眉月 声優さんって、ちょっとハードル高いと思うんですよ。まず声が良いのが絶対条件っていうのが難しくないですか?
杉田 最終的にどこを目指すかですよね。声優に資格は要らないので、自分で声優を名乗ればその時点で声優なんです。そして、何らかの形で対価を貰ったらプロ声優の誕生ですよ。
眉月 あ、確かに。そこは漫画家と一緒ですね。
杉田 難しいのは続けることです。「好き」という自分に飽きてしまう瞬間は、いつか絶対に来ますから。
眉月 飽きが来るのって、退屈感とかが原因なんですか?
杉田 これは人によりますが、役を背負うことの重さであったり、モチベーションが別の場所にあったり、そういった様々な要因が多いんじゃないかと思います。
眉月 キャラクターと自分を比べてしまったり、キャラクターと同一視されることが辛い、とかですかね。杉田さんだったら『銀魂。』の銀さんと同一視される、みたいな。
杉田 そうです。でも僕は銀時そのものではないじゃないですか。時には「銀時としてコメントをください」なんて言われる事も少なくない。難しいところです。
眉月 それは同一視されてますね(笑)。
杉田 『銀魂』は空知英秋先生の原作を元に、アニメーターの方が絵と色をつけ、音響制作が場面を作り、我々が芝居をあてて成り立っています。構成される一部のパーツが全てを語る事にためらいはあります。
眉月 そこちょっと伺いたかったんですけど。『銀魂。』のアニメってすごく長かったじゃないですか。日常生活の中で、自分自身が銀さんに侵食されるような事ってないんですか?
杉田 特にありませんね。
眉月 アフレコ現場ってすごく不思議な空間で、自分の役の順番が来たらスッと前に出て、すぐに役に入り込んで演技を始めるじゃないですか。あれが衝撃的で、どうやってキャラを作ってるのか知りたかったんですよ。
杉田 僕の場合は、演じる事になった役に頭を下げて演じさせてもらっています。キャラクターとの対話を済ませて、初めて演技ができるイメージですね。歩み寄ると言いますか。
――では逆に、杉田さんから眉月さんに聞きたいことなどはありますか?

杉田 なさそうだと思って聞くんですけど。権威に対する強い執着ってありますか?
眉月 私はそういうのはあんまりないかもしれない。
杉田 『恋雨』で小学館漫画賞を受賞されていますよね。
眉月 もちろん、貰えたら当然嬉しいですよ。今までで一番嬉しかったのは、フランスの読者さん評で『恋雨』が一位になったと聞いた時ですね。そんな感じで、何の思惑もなく、読者さんの感想として評価してもらえる方が私としては嬉しいですね。
杉田 なるほど。名誉欲より、作品に対する純粋な評価を喜ぶタイプでしょうか。
杉田 僕は一時期“どうしても『ガンダム』に出たい病”にかかっちゃって。その収録に合わせてスケジュールを空けてたんです。来るかもしれない、でNG出すなんて問題ですよ。
眉月 あっはっはっは!
杉田 でも、それって冷静に考えると大間違いじゃないですか。それで僕は反省して、何か大きなモノに固執すると弊害が起きる。自分の中でハッキリとした理由付けもなく「とにかく出たい!」ってのは、プロとしてイカンだろうと。
――他に漫画について杉田さんから眉月さんに聞きたいことなどありますか?
杉田 漫画の絵柄って、連載の中でだんだんと顔つきが変わってきたりしますよね。あれって、何か転換点があって変わるようなものなんですか?
眉月 物語が進むにつれてキャラの内面が変化して、それに伴い顔つきが変わることはもちろんあります。作画の変化とは別のところで。
杉田 僕が知っている例だと、現実の人物をモデルにしたキャラクターが、現実の状況に合わせて変わってしまうって事があったりして。
眉月 それはあると思いますよ。漫画家って、日記みたいに自分を描くタイプと、他人のことを描くタイプがいると思っているんですが。日記みたいに描く人は身の回りで起きた出来事を取り入れるだろうし、モデルになった人間への感情が変化したら、ちょっと描き方も変わっちゃうかも。
杉田 眉月さんはどちらです?
眉月 私は中間くらいだとは思うけど、どっちかと言えば自分寄りかな。今の所は親しい間柄の人間をモデルにしたことはないので、ちょっと経験はないんですけどね。
杉田 出自がどうあれ、漫画のキャラクターって作者から生まれてるから、全てのキャラクターに作家が入ってるように思うんです。他人をモデルにする場合でも、その他人は自分の中で解釈した他人ですから。
眉月 そうですね。皆にちょっとずつ、自分の欠片を入れているような感じです。

――『九龍』を読んだ時、杉田さんはどう感じられましたか?
杉田 九龍って僕の中では、自分の理想を他人から与えられた未来の話なのかなって。怖い反面、その幸せを否定することはできないような、そんな世界だと感じました。
眉月 どんな部分を「怖い」って感じたんですか?
杉田 過去の思い出から出てこなくなって、ヒトでなくなってしまう気がするから、ですかね。だって理想が主観的に実現してるんだったら、そこから出てくるワケがないじゃないですか。皆に理想が平等に配られるとも思えないし……。アレは結局どういうモノなんですかね。
眉月 ……どうなんでしょうね。
杉田 くそ、聞きたいのに聞きたくない!
眉月 聞かれてもなんも言いませんからねぇ。
杉田 ともかく、僕は続きを楽しみにしています、余計な考察はしません!
眉月 ああ、なんて良い読者さんなんでしょう……。

――ありがとうございます。最後に『九龍』読者の皆さんに向けたコメントをお願いします。
杉田 既に単行本一冊分を読ませていただきましたが、爆裂に良い巻毎の“ヒキ”は相変わらずです。単行本派の皆さんは是非、この衝撃をまとめて味わってください。僕も一読者として、今後の展開を楽しみにしています。……これで、恋雨ロスからようやく抜け出せそうですよ。