YJ×脚本家スペシャルインタビューvol.1 古沢良太

YJ×脚本家スペシャルインタビューvol.1"
撮影◎石川耕三

映画やドラマ、アニメなどで大活躍中の脚本家の皆さんに、全3回にわたってインタビューを実施!!第1回は大人気のドラマシリーズを多く手掛ける古沢良太さんが登場!!

 

古沢良太(こさわ りょうた)

主な脚本参加作品に『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)、『探偵はBARにいる』(2011年)、『鈴木先生』(2011年)、『リーガルハイ』シリーズ(2012年~)、『コンフィデンスマンJP』シリーズ(2018年~)、『GREAT PRETENDER』(2020年~)など。

 

【昔の夢は漫画家!?】

―古沢さんが脚本家を志した経緯を教えていただけますか。

古沢 実は中学生くらいの頃は漫画家になりたかったんです。その時に、漫画家を目指すなら、漫画だけでなく映画も観なさいという手塚治虫先生の教えに触れました。それを真に受けて、名画を沢山見ているうちに、脚本家もいいなと思い始めたんです。特に影響を受けたのが黒澤映画。図書館に黒澤明の脚本集があって、それを読んだらすごく面白かった。それから脚本の勉強を始めたところ、テレビ朝日のシナリオコンクールで大賞を頂いてデビューに至りました。

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―最初は漫画家を目指されていたんですね。その当時、どういう漫画を描いていたんですか?

古沢 アクション時代劇でした。実は十八歳ぐらいの時に、その作品を手塚賞に送っているんです。一応、引っかかって、授賞式にも行ったんですよ。(笑)

―そうだったんですね! では次に、古沢さんが思う脚本家という職業の魅力を教えてください。

古沢 シンプルに、やっていて楽しいところが魅力です。子供の頃から空想したり妄想したりするのが好きだったので、それを今も続けているだけなんです。こんなことでお金を貰っていいんだろうかって、いつも思っていますね。あと、脚本はあくまでも映画やドラマの部品の一つで、関わっている人たち全員のものなんです。なので、いい脚本を書けば、スタッフ、俳優、みんなが前向きになって自分の仕事に取り組んでもらえる。そこにも魅力を感じます。

 

【『コンフィデンスマンJP』について】

―最新作の『コンフィデンスマンJP プリンセス編』、拝見しました。最もこだわったシーン等あれば教えてください。

古沢 困ったな。あれは本当に追い込まれて書いていたので、もうあんまり覚えてないんです。(笑)連ドラ、スペシャルドラマ、映画第1弾と長くやっているうちに、物語の中でいろんなキャラクターが育ってきたので、彼らが再会するお祭り感は意識しました。各キャラクターにちゃんと役割を持たせて、それが有機的に絡み合うような物語にしたいなと。なので、そこを楽しんでもらいたいというのはあります。

―とはいえ、多くのキャラクターの個性を殺さず、かつ混乱させないように動かすのは相当難しいと思います。なにか、工夫やテクニックがあるのでしょうか?

古沢 うーん、一生懸命やっているとしか言えないです。(笑)『コンフィデンスマンJP』(以下、「JP」)の場合、基本的にはメインの三人である「ダー子*1」、「ボクちゃん*2」、「リチャード*3」が何をするかという所が幹なので、そこを作った後、他のキャラをはめていくんです。「こういうシーンがあるなら、このキャラクターを出せるんじゃないか」とか、「このキャラはこういう役割で出てきたら面白いな」とか。まずは頭の中でいろいろ練りますし、プロデューサーに相談してアイデアを貰ったりもします。テクニックが確立しているというよりは、とにかく沢山考えるんです。もちろん、没になるアイデアも多いですが、その集積が大事なんだと思います。

―なるほど。とにかく粘るのが大切なんですね。

古沢 そうですね。あとは、もう無理やりです。

―無理やり?

古沢 例えば、「ジェシー*4」という三浦春馬さんが演じてくれたキャラクターは、いろいろな女性を籠絡する役割なんですよね。でも、そこをちゃんと描こうとすると大変だから、ジェシーは女性を落とすことに関しては問答無用である、理屈はないということにする。東出昌大さん演じるボクちゃんに、「さすがジェシーだな」と言わせれば成立しちゃうんです。無理やりだけど、これも工夫の一つだと思います。そういう省略をしているから、沢山のキャラクターを出せるのかなと。ドラマ作りを真面目に考えすぎずに、悪ふざけしながらやっている感じですね。

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【キャラクターの履歴書は作る?作らない?】

―キャラクターの話が出ましたが、シリーズ内で特に思い入れがあるキャラクターがいれば教えてください。

古沢 みんな好きですね。でも、やっぱり主役のダー子に関しては、実験的な部分も含めて、すごく面白いキャラクターを生み出せたと思っています。まだまだポテンシャルがあるし、もっと影響力のあるキャラクターに育つ気がしているので、もうちょっと書いてみたいですね。

―ダー子に関して実験的というお話がありましたが、どういう部分についてでしょうか?

古沢 ダー子だけじゃなくて、ボクちゃんもリチャードもなんですけど各キャラクターに履歴書を一切作っていないんですよ。どういう人で、どういう人生を送ってきたかが、一切分からないキャラクターにしたかったんです。普通に詐欺師もののドラマを作るときは、キャラクターたちがいろんな人生を背負っていて、大体、何か悲しい過去があって詐欺師になったりする。そういう素の部分にキャラクターの実像があって、人を騙すとき、何かに成り済ますときが虚像のキャラクターになるわけです。けど、僕はこのドラマで、それを逆にして、何かに成り済ましているときが実像で、普段の彼らが虚像という感じにしたかったんですね。だから、一応、こんな人生を送ってきた人かなという設定が自分の中にはありますが、出演者にも一切伝えていません。特にダー子に関しては、そういう物語作り、キャラ作りの鉄則みたいなものを全部取っ払うことで、何をやってもいいし、できないこともない、あらゆるルールとか時代をも超越していけるキャラクターになっているんじゃないかと思います。長澤まさみさんを始めとする、出演者の皆さんのお力に頼っている部分もあるんですけど。

 

【価値観への反逆】

―「JP」も「グレプリ*5」も詐欺師が主人公ですが、悪者VS悪者の構図はお好きなんでしょうか?

古沢 というより、この人は正義、この人は悪という風に作りたくないんです。これは正しい、これは間違い、みたいな価値観を取っ払いたい。例えば、家族はこうあるべきだとか、夫婦はこうでなきゃいけないとか、そういう人間関係に対してのあるべき姿みたいなものを勝手に押しつけて、そこから外れると不幸だとか可哀そうだとか、勝手に言う人がいるじゃないですか。そういう価値観を破壊することで、いろんな生き方があっていいじゃないかという所にたどり着きたいなと、常に考えています。だから「JP」でも、偽物であっても本物以上に輝く場合があったりする。本物か偽物かが問題なのではなくて、偽物であっても人を幸せにする方に価値があると思うんです。だから、悪者VS悪者にこだわっているわけじゃなくて、良い悪いという価値観を外したいだけなんですよね。

 

【どうなる?コロナ後のエンタメ業界】

―現在、新型コロナウイルスが猛威をふるっています。コロナ禍のエンターテインメント業界にいて、何か感じたことはありますか?

古沢 エンタメは、つらい時代になればなるほど必要で、すごく大事なもののはずなんです。なのに、そんなエンタメを守ろうと、この国であまり言われていない現実がすごく悲しい。ただ一方で、それは自分たちの責任でもあるだろうと思っています。例えばアメリカでは、エンタメ業界が手厚く守られている。それはやっぱり、エンタメ業界が潰れてしまったら、経済に対してすごく大きな打撃になってしまうからなんです。ハリウッド産業なんか、特にそうですよね。ただ、日本のエンタメ業界はそうなっていない。だから、政府も守ろうとしないんです。この業界が潰れたところで、大したダメージにならないと思われちゃっているから。なので、僕たちはもっといいものを作って、経済を支えていける産業にする必要があると思います。

古沢氏

――ありがとうございました!

(※1)シリーズの主人公。美しきコンフィデンスウーマン。 (※2)主人公・ダー子(長澤まさみ)と計画を共にすることが多い、若く真面目なコンフィデンスマン。
(※3)主人公・ダー子と計画を共にすることが多い、百戦錬磨のコンフィデンスマン。
(※4)ハンサムな天才恋愛詐欺師。劇場版第1弾にて初登場したシリーズ屈指の人気キャラ。
(※5)登場キャラクターこそ違うものの、世界を舞台にコンフィデンスマンたちが活躍するアニメ作品。