作曲家×YJインタビュー vol.2

杉山勝彦さんロゴ
撮影:名児耶洋

新時代を彩る作曲家達に全4回にわたって直撃していくこのコーナー!!
第2回の今回を飾るのは家入レオや乃木坂46の楽曲や、アニメ『ダーリン・イン・ザ・フランキス』のエンディングテーマを手がけている杉山勝彦さんに直撃!!

 

杉山勝彦

杉山勝彦さん

作詞・作曲・編曲家、フォークデュオ「TANEBI」のギタリストとしても活動中。
1982年1月19日、埼玉県入間市の家庭に3人兄弟の末っ子として生まれる。家入レオの「ずっと、ふたりで」(『第59回輝く!日本レコード大賞』作曲賞受賞)や乃木坂46の「君の名は希望」など。アニメ『ダーリン・イン・ザ・フランキス』エンディングテーマなども手がける。アルバムリード曲「ありがちな恋愛」を手がけた、乃木坂46のニューアルバム『今が思い出になるまで』も発売中。

 

―プロの作曲家としてバラードからポップスまで幅広く手がけられていますが、インプットで気をつけられているところはあるのでしょうか。

こうやってお会いして話をしているときも含め、日々曲作りに活かせそうなことを抽出してメモし、一般化・公式化していくようにしています。そうして出来た法則をメロディーやリズムに当てはめてみるというアプローチは心がけています。ただ、頭で考えて理詰めで作ったものには限界があって、それが人の心にどれだけ届くかというと難しい部分もあります。理屈で作る能力は日々磨きつつ、感情的な面でも盛り上がれる瞬間を作れるように、自らを感動出来る状態に持っていくようにしています。映画を観たり本を読んだりするのでも、知り合いから話を聞くのでも良いんですが、自分の感情を高めていくことは意識的にするようにしています。

杉山勝彦さん

―自分が感じた感動を、自分の作品にも感じられるかの指標にするということでしょうか。

そうですね。常に冷静な状態で作ってしまうと、いつ作っても同じようなものになってしまうところがあります。感情的になっているからこそ生まれる旋律のようなものがあって、そういう瞬間が曲のどこかにないと人の心には届かないのかなと思います。僕は『キングダム』が好きで、前々から「原先生は泣きながら描いているに違いない」と思っていたんですが、『情熱大陸』で原先生が出演していたときに実際に泣きながら描いているのを見て、やっぱり感情的な部分と作品作りには通じるところがあるんだなと感じました。流行りの音楽を解析したりする理論的なアプローチはもちろんやりますが、結局それってみんなやっていることなので、他の分野のエンタメや、色々な人と話す中で培われる要素も大切にしたいと思っています。

―今までと同じことを繰り返していてもただのコピーのようになってしまいますし、その中で新しい方向性を見出すという点では、やはり幅広いインプットが必要なのですね。

数年前に乃木坂46の「君の名は希望」という曲を作ったのですが、当時は「アップテンポでアゲアゲな曲こそがアイドル曲」のような雰囲気があった中で、オンコードなど、クラシック寄りの要素を取り入れてみました。それ自体は発明でもなんでもないし、既に沢山やられてきたことではあるんですが、世の中が一斉にある方を向いている時に、違う方向を向いていられたのが、成功の一つの要因だったのかなと思います。

杉山勝彦さん

―ありがとうございます。提供するアーティストが男性か女性か、ソロなのかユニットなのかによって作曲のアプローチは変わったりするのでしょうか。

ソロで歌える方は歌唱力が高い場合が多いので、その方が持っている声質に合わせてオーダーメイドで作っていくようなイメージですね。アイドルなど、複数人向けの楽曲になると1オクターブちょっとくらいしか使えない中で、Aメロ・Bメロ・サビとフリからオチまで作って、なおかつメリハリも付けなければいけないので、よく考えて作らなければなりません。

―グループ向けの楽曲作りは制限が多く、難しそうですね。

大人数であればこそ出来ることもあって、例えば、呼吸をするタイミングを取らなくても大丈夫だったりするので、聴いている人がドキッとするような繋ぎ方が出来たりします。「カラオケでどうやって歌うんだ!」というツッコミがあったら「友達と歌ってください」としか言えないんですが…(笑)。また、複数人で歌った方が映える曲というのもあって、それこそ乃木坂46の「君の名は希望」のメロディの動きも、どっちかといえば合唱っぽく何人かで歌った方が映えるような作りになっていると思います。あとは歌詞の内容でも違いがあります。たとえば男性の5人組とか6人組のグループとかで「君だけを愛している」みたいな個人的なことを歌詞にしてしまうと少し嘘臭く聞こえてしまう場合があります。その場合は、もう少し一般論に近い感じの歌詞にしてみるとしっくりくるかなと思います。

杉山勝彦さん

―アニメやテレビ番組とのタイアップにも取り組まれていますが、アーティストに提供する時との違いはあるのでしょうか。

アニメとのタイアップの場合、TVサイズの89秒という制限であったり、放送時間などの要素もありますので、そのルールの中で作っていくという違いはあります。また、ノンタイアップで単独のアーティストに提供する場合は、その楽曲の中に光景をイメージさせる(歌詞などの)要素があった方が良いのですが、ドラマなどのタイアップでそれをやってしまうと、世界を2つ作ってしまうことになるので、少しぼんやりさせないといけないという面もあります。

―アニメ『ダーリン・イン・ザ・フランキス』のエンディングテーマ6曲全てで作詞・作曲・編曲を担当されていますが、その時のエピソードについて伺えればと思います。

脚本を全部読んで、作品やキャラクターのイメージを掴むところから始まりましたね。1曲目の「トリカゴ」についてお話しすると、作品世界のキャラクター達が現実世界にいたら、という設定で作りました。(作品内で)パイロットになるような少年・少女たちって、現実で置き換えたら超優等生だと思うんですが、大抵そういう子達がいる学校って校則が厳しいはずで、その中で抑圧されている部分を表現出来たら良いなと思って作りました。また、6曲全てを聴いてくれた人だけに分かるような仕掛けを入れました。6曲目の「ダーリン」では最後の間奏部分を「トリカゴ」のイントロ部分と同じような作りにしていて、ほとんど同じ旋律になっているのですが、ちょっとだけ前向きな印象になるようにしています。(キャラクター達が)以前と同じような葛藤を抱えているのは変わらないんだけれども、仲間や好きな人が出来たことによって、世界に対する登場人物達の向き合い方が変わったイメージを表せればと。連作だったからこそ出来たことかなと思います。6つ全ての楽曲を作詞、作曲、編曲出来る機会はなかなか無いので、貴重な経験でした。

―アーティストへの提供、タイアップ、デュオでの活動など、プロとして幅広く活躍されている杉山さんから見て、プロとアマチュアとの違いにはどのようなところがあるのでしょうか。

分かりやすく言えば、アマチュアは自分が一番楽しければよくて、プロは人に喜んでもらわないと意味がないということだと思います。たとえばドラマとのタイアップであれば、ドラマのスタッフさんたちが喜んでくれて、歌い手の方に「この曲は最高だ」と思ってもらって、リスナーの方を通して世の中に広がっていって、「カラオケで歌いたい!」なんて思ってもらえるようにしていく。つまり、関わる全ての人たちを幸せにしないと本当の意味では自分に幸せが返ってこないのがプロなのではないかと思っています。

杉山勝彦さん

―ありがとうございます。先ほど『キングダム』のお話も少し出ましたが、お好きな漫画などについて伺えればと思います。

基本的に戦っているものを見るのが好きなので、『はじめの一歩』とか『進撃の巨人』なんかが好きなんですが、中でもやっぱり『キングダム』がイチオシです。嬴政の演説シーンなんかはすごくカッコよかったです。ハマると完全にそれだけにとことんハマるタイプなので、普段見ているのは大体『キングダム』か『進撃の巨人』か『24 -TWENTY FOUR-』なんですよ。ちなみに『24-TWENTY FOUR-』は好きすぎて、仕事中も全シーズンを繰り返し流し続けているんです。

―音が気になってしまいそうですね。

小さい音で流すようにはしているんですが、銃撃戦のシーンとかが始まると気になってしまって仕方がないですね(笑)。とにかく筋書きが素晴らしくて、「このシーンを作るための前振りとしてあのシーンがあったのかな」「このキャラクターをここで出すためには、あの段階で考えていたんだな」なんて掘り下げてみると改めて凄さを感じられます。

―とにかく1つのことを掘り下られるタイプなんですね。

多分、自分で『24-TWENTY FOUR-』とか『キングダム』を作りたいんだと思います。

杉山勝彦さん

―自らが感動したものの正体や、その理由を知りたいという感じでしょうか。

自分で作るんだったらどういう『キングダム』にするのか、どういう『24-TWENTY FOUR-』にするのかということなのかなと。映画を観に行っても、「映画を楽しむ」というよりは「この映画はどうやって作るのか」「この作品をもっと面白くするためには、こうしたらいいんじゃないか」なんてことを考えてしまいます。公式化して次に繋げていきたいんだと思います。

―漫画やドラマなど、音楽以外のエンタメを通して、何かお仕事のヒントになるポイントはあったりするのでしょうか。

テーマがあって、イントロダクションと繋ぎがあって、どんでん返しからオチに向かうという筋書きがあったとして、「どんでん返しはこういうパターンにしよう」というのがあれば、「イントロダクションでこういうものを出さないといけない」と順序立てて考えていくんだと思いますが、音楽にもそういった部分はあるので、考え方という点でいくとヒントになるかなと思います。

杉山勝彦さん

―なるほど。最後に、お仕事の展望について伺えればと思います。

やはり、ずっと残り続けるものを作りたいというのは、作り手として夢ではあります。僕は埼玉県の入間市が地元なのですが、入間市の市歌を作らせてもらえる機会がありました。同じく入間市出身のイルマニアさんに自分で連絡を取ってラップを歌ってもらったりして作ったのですが、メジャーレーベルとかがかかわっていないところでバズを生むような仕事が出来たら面白いかなと思っています。もちろん、自分たちでやっているデュオや自分の曲が広めていきたいという気持ちもありますが、そのような仕事にも取り組めたらと思っています。

―ありがとうございました。