新時代を彩る作曲家達に全4回にわたって直撃していくこのコーナー!!
第3回の今回は、様々なアーティストやアニメ、ゲームの楽曲を手がけている白戸佑輔さんに直撃!!
白戸佑輔
作詞・作曲・編曲家。1981年に茨城県で生まれ、幼少期よりピアノを習う。
高校でドラムと作曲に目覚め、その後、東京音楽大学作曲科へ入学。大学3年時にベースを始め、卒業後はベーシストとして活動。2007年より作家としての活動を開始し、様々なアーティストへの楽曲提供やサポート演奏を行う。代表曲はラストアイドル「バンドワゴン」、欅坂46「世界には愛しかない」、鈴木このみ「DAYS of DASH」、JUNNA「Here」、THE IDOLM@STER「乙女よ大志を抱け」など。
―まずは、白戸さんのこれまでの音楽遍歴について伺えればと思います。
もともとは小学6年生くらいまでピアノを習っていました。中学に入ってからピアノはやめてしまいましたが、UNICORNやTHE BLUE HEARTSが流行っていた頃で、自分もバンド活動に目覚めてドラムを始めました。中学を卒業して高校生になってからは軽音楽部に入り、同じ中学から来たメンバー、他の高校のメンバーと一緒にバンドを組んでいました。その頃、『自分たちでオリジナルの曲をやろう』ということになり、作曲を担当することになったんです。そこで「作曲をするならピアノもやりたい」と思い、再び習い始めることにしました。せっかくやるならガッツリとやりたかったので、有名な音楽家の先生のお宅にお邪魔してレッスンを受けることになりました。もともと凝り性なところがあるので、いざ始めてみたら「プロのピアニストになるんだ!」という気持ちになり、先生から音楽大学の夏期講習に行くことを勧められました。後から聞いた話だと、どうやら先生はピアニストの道を諦めさせるために夏期講習に行かせたみたいなんですが(笑)。いざ夏期講習に行くと、ピアノの先生から「(ピアノは)厳しいけれども、作曲の先生を紹介する」と言われて、クラシックの作曲の先生に師事することになりました。結局、「ピアニストになる!」と夏期講習に行って、戻って来たときには「クラシックの作曲家になる!」と言っていました(笑)。そこからの流れで東京音楽大学に入り、クラシックにどっぶり浸かるというような流れでした。
―クラシックのピアノを習っていて、一旦バンド方向に行ってから、再びクラシックに戻ってくるというのはなかなか無い経歴に感じます。
確かにそうかもしれませんね(笑)。ただ自分の場合は、もともとクラシックが好きだったので、あまり抵抗はありませんでした。ちなみに大学時代はクラシックの作曲専攻だったのですが、亀田誠治さんにハマってベースを始めたりもしました。
―すごい振れ幅ですね…。大学卒業後はどのような感じだったのでしょうか。
大学を出てからは契約社員という形で働いていましたが、収入的に音楽活動を維持していくのが難しくて、「闇の仕事でもいいから、週1とか週2でめちゃくちゃ稼げる仕事ないかな」と思っていたところ、「週2回勤務で月収28万円」という夜勤の仕事を見つけました。IT企業のヘルプデスクのバイトだったので、内容的には全然「闇の仕事」ではなかったのですが、18時から朝9時までの勤務だったので、働き方的には闇だったかもしれません(笑)。ただ、ユルい職場だったので、夜中の空いている時間に作曲の仕事をしたりしていました。
―ブラックなのかホワイトなのか難しいラインですね…。
トータルで6年くらいそこで働いていたのですが、ある日経営者が変わってバイト切りという形で職を離れることになり、その後半年くらいは失業保険をもらいながら作曲を続けました。並行して、ハローワークの職業訓練でIT関連の資格を取るための勉強をしていたのですが、それがだんだん楽しくなってきてしまって、持っていた本がプログラミングとサーバーの本しか無くなってしまうような時期もありました(笑)。もちろん作曲の仕事もしてはいたのですが、「もうこっち(ITの仕事)にしようかな」なんて思ったりもしました。
―本当に凝り性なんですね。どんどん音楽の仕事からは離れる方向に向かわれているような印象ですが、その後はどうだったのでしょうか。
ある日、レコーディングに参加させてもらったときに、他のメンバーの音楽へのモチベーションがすごく高いのを目の当たりにして、ハッと我に返ったんです。それまでは「IT系の資格もたくさん取ったしプログラマーになろう」と盛り上がっていたのですが、あの瞬間に「やっぱり音楽をやりたい」という気持ちに火がつき、一旦趣味としての音楽は封印して、ひたすら篭ってコンペ用の曲を作り続けるようになりました。そうなる前にもちょくちょく曲がコンペに通ったりしていたのですが、より一層採用される機会が増えていって、本格的に音楽の仕事を始めたという流れです。
―好きな音楽をやるということと、プロとして音楽をやるということの違いというのもあるのでしょうか。
自分の音楽的なバックボーンとしては、ジャズ・フュージョン・ファンクあたりのジャンルがあるのですが、仕事になると、90年代のポップス・歌謡のメロディーがいまだに踏襲されている流れがあるので、常にそこは意識するようにはしています。また、Aメロ・Bメロがあってサビになるという流れだったり、聴いていて気持ちの良いコード進行であったり、プロでやっていく以上は規定演技的な面もありますので、そこに寄せていきつつ良いものを作っていくようにはしています。趣味で作るのであればそういった工夫は必要ないのですが、より多くの人に届くようにするためには、ある程度フォーマットに則りつつ、そこにワンアイデア盛り込むような作りにしていかないと、お客さんに付いてきてもらえないのかなと思います。逆に、フォーマットがあるからこそ「こう来るだろうな」と思わせてから、「まさかこれをやるんだ!」と良い意味で期待を裏切る展開を作れるという面もあります。
―なるほど。アーティストへの提供からアニメのタイアップ曲まで様々な場面の音楽を手がけられていますが、何か作り方に違いはあるのでしょうか。
自分の場合はメロディーに差をつけるようにしています。アニメの場合は、細かくて難しめの譜割にしてみたり、展開自体も激しめのものにしてみると映えるケースが多いですね。また、アニメはオープニングやエンディングの映像と合わせるものなので、ワザとらしすぎるほどにキメの部分を盛り込んでおくことで、映像の場面転換ともあいまって面白いものになります。逆に、アイドルの曲やアーティストの曲でそれをやってしまうと歌いにくかったり踊りにくかったりするので、最終的にどこで披露されるものなのか、ステージはどこなのかを意識して作るようにしています。
―最終的にどこでお客さんの目に触れるかということを意識されるということですね。曲作りはどのような流れでされているのでしょうか。
曲作りって企画が大事なので、ピアノに向き合っているよりも、まずは布団の中で「サビでこういう感じにしよう」とか「この辺を長い音符にしよう」という感じにイメージを固めてから入るようにしています。ピアノの前にいると漫然と弾いてしまって、無為に時間が過ぎていってしまうこともありますし(笑)。コンペ曲の締切が朝であることが多いんですが、大体いつも締切日の朝の3時くらいまでお酒を飲んで、朝6時に起きて、まっさらな状態から曲を練って、7時にデモ曲を歌ってもらう方に送って、歌ってもらっている間にアレンジを作って締切の10時に提出するような流れです。
―ものすごいスピード勝負ですね(笑)。締切ギリギリの方が思い浮かびやすいのでしょうか。
そうですね。締切の前の日に酒を飲んで、目が覚めてから布団の中にいる時が一番浮かびます。「締切が来る!」というプレッシャーがいい方向に働いて、脳内麻薬的なものが出て来るんでしょうか(笑)。締切前に布団の中にいる時、Twitterでも「まだ布団にいる」なんてツイートしたりして、どんどん自分で自分を追い込んでます。
―「火事場の馬鹿力」的な状況に自ら追い込んでいくようなイメージなんですね。ちなみに、これまで印象的だったお仕事はありますでしょうか。
自分と年代の違うアーティストと仕事をするときは衝撃を受けることが多いですね。特に、20歳くらい離れた若いアーティストがものすごく上手に歌っていたりするのを目の当たりにすると驚きです。どうやって生きてきたらこんなに上手くなるんだろうと(笑)。「DAYS of DASH」を歌ってもらった鈴木このみさんの時なんかは衝撃でしたね。
―確かに、自分よりはるかに若い人がしっかりと仕事をこなしていたり、とんでもない才能を持っていたりすると驚きますよね。アニメ関連のお仕事もよくされていますが、好きなアニメや漫画などはあるのでしょうか。
『ARIA』や『SHIROBAKO』など、ほんわか泣ける系のアニメがすごく好きです。ほんわか、というより結構泣いてしまうんですが『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』も好きですね。全話泣けます。
―アニメを観るようになったきっかけは何なのでしょうか。
アニメにはあまり触れてこない人生を送ってきたのですが、仕事で『とある科学の超電磁砲』というアニメのキャラクターソングを作る機会があり、それをきっかけに観てみたらハマってしまいました(笑)。それまでアニメって泣けるものだとは思っていなかったのですが、それが覆されて「アニメすごい!」と思わされましたね。その後『ひぐらしのなく頃に』を観て、アニメにどっぷりという感じです。「なろう系」の異世界転生モノも実は好きです。
―なるほど、ありがとうございます。最後に今後のお仕事の抱負を伺えればと思います。
アニメなどの劇伴でインストゥルメント曲を作るのが楽しすぎるので、そちらの仕事を増やしていきたいと思っています。あとは、アイドルの表題曲を作りたいなぁ…。展望というか祈りですが(笑)。
―ありがとうございました。