JAXAインタビューvol.1 野口聡一氏

JAXAスペシャルインタビューvol.1

JAXAスペシャルインタビューvol.1
野口聡一氏

――まず、宇宙飛行士というと宇宙でのイメージが強いのですが、地上にいる間はどの様な生活をされているのでしょうか?

野口聡一さん(以下、野口)宇宙飛行士というと宇宙に行く人という感じがするのですが、実際には宇宙に行く機会というのはすごく限られています。例えば、宇宙飛行士になって20年のうち宇宙に滞在しているのは半年とかで、ほとんどの時間は地上で過ごしています。地上にいる間は、仲間の宇宙飛行士を助けたり、宇宙船をより安全なものにしたり、あるいは宇宙で行われている色んな科学実験や宇宙観測などの地上側での色々な作業に関わったり。時には主役になったりもしますけど、人が宇宙に行くことを色々な形で支えていくっていうのが、この宇宙飛行士の仕事の一番の正しい言い方なんじゃないかと。

――普通に週休2日制なのですか?

野口 地上にいる時はまさに週休2日。どのミッションに参加するかとか、どの宇宙船に乗るかとかが決まってから1年くらいが本当に宇宙に行く為の準備に専念できる時間です。そうなってくると、体力づくりであったり、健康管理であったり、そういったことが大事になってくるので、少し違った時間の使い方にはなります。

――宇宙に行くことが決まった際、日常生活での制限はあるのでしょうか?

野口 基本的には宇宙に行くための身体づくりっていうことですね。運動をしっかりして、食事をしっかり摂って。虫歯や生活習慣病みたいな、もし体に悪いところがあれば治す。ただ一方で、宇宙に行くからと言って急に変えるというよりは、普段から自己管理をやっていこうというのが、我々の宇宙飛行士になってからの習慣ですね。

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――お酒なども特に制限はないのですか?

野口 JAXAの他の職員と飲みに行くことも当然あります。そういう所で変に制限してしまうことの方がむしろ良くないことで、一日終わってリラックスする時間を作るのも大事なこと。

――なるほど、精神面も大切なのですね。では、宇宙飛行士に必要だと思う素質や得たスキルなどはありますか?

野口 すごく大きな組織の中だと、思い通りにならないことってどうしてもでてきますよね。そういった時にあまりストレスを貯めこまないようにして、尚且つ、必要以上に引っ張らないことですかね。割り切りも必要だし、いい意味で忘れっぽいというか。そういうのはすごく大事ですね。

――そういう部分は普通の会社員と同じかもしれないですね。

野口 そうですね。完璧主義者ほど引っ張りがちだと思うので。自分ができることはここまでだっていうこと、あるいは70点主義というか、これだけできてりゃとりあえずもういいやっていう感覚はすごくありますね。

――意外ですね。宇宙飛行士というと、もっと完璧なイメージがありました。

野口 そういうイメージを持たれる方が多いですが、むしろ妥協していく事も大事だなと思います。

――では次に宇宙での滞在についてですが、滞在中はどの様な生活をされているのでしょうか?

野口 ロンドンの時間を使っているんですけど(※国際宇宙ステーション(ISS)は90分で地球を1周する為、45分ごとに昼夜が入れ替わる)、基本的にはすごく規則正しい生活で、朝6時になったら起きて、8時になったら地上の管制官と交信が始まって、お昼ご飯食べて、だいたい18時くらいまでに仕事が終わって、その後は食事をしたり、娯楽の時間。それで23時頃には寝るという、それの繰り返しです。

――勤務中は過密なスケジュールの管理というのがすごく大変だと思うのですが、そういったスキルも必要なのでしょうか?

野口 マルチタスクが得意な人は間違いなく宇宙飛行士に向いていると思います。ちょっとずつ手を付けながらとりあえずこれはこれで良いけど、その間にこっちもやっておかなきゃみたいな人。例えば料理とかね。複数の料理を並行してやったりするのはすごく宇宙飛行士向きのタスクだなと。

――料理がうまい人は宇宙飛行士の素質があるのかもしれないですね。
  勤務以外の時間、ISSでの娯楽は何があるのですか?

野口 まずはなんといっても素晴らしい景色が目の前にあるので、地球の姿を見たり、写真を撮ったり、そういったのは娯楽というか気分転換になります。それと、最近はインターネットがあるので、電話は直接できないけど、メッセージをやりとりして、ネットで情報をとれればどこにいても変わらないという環境になりつつあります。ゲームにしても音楽や映画にしても全部ネットで解決できる。昔は大変だったんですよ、例えば音楽が聴きたければ、CDをロケットで上げてもらうしかないし…。

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――インターネットによって、地上とそんなに大差ない生活が送れる様になったのですね

野口 そうですね。ただ地上との一番の違いは、好きな人に好きな時に会えないということ。そこはやっぱり物理的に離れているという感覚がどうしてもストレスになる。

――ISS滞在中はずっと限られたメンバー、限られた空間での生活になると思うのですが、それに飽きたりはしないのですか?

野口 宇宙ステーションは思っているより広いので、朝起きてから夕食になるまで1人でずっと作業してる時期もあります。人に関しては3ヶ月おきにメンバーが変わっていき、途中でやってくるようなメンバーもいるので。それに、テレビ電話であったり、先ほど話したネット介したやりとりであったり、地上ともつながっているので、自由には出歩けないけれど、どうしても息が詰まるような狭さではないですね。

――ISSで一緒になるメンバーの方々とは、地上にいる時から交流はあるのですか?

野口 基本的に一緒に宇宙に行くメンバーとは、その1年前くらいから一緒の訓練ができるように配慮してくれていて、時々訓練の一環として1週間くらい一緒にキャンプに行くこともあります。そっちの方がISSより余程閉鎖空間ですね。大自然の中とは言え、1週間同じテントで、ネットもないし。そういうことをしながら、それぞれに長所短所があるし、苦手なものっていうのが当然あるので、そういうのを知ることができるすごくいい時間かなと。

――初めての宇宙でも、無重力状態で思い通りに移動できるものなのですか?

野口 間違いなく地上で思っているより動けません。物をよく無くすし、行きたいところに動けないし…。その一方で、人間の体ってすごい適応能力があるんだなとも思います。まさに1日ごとに体の動かし方とか慣れていくし、ご飯を食べれば無重力でもちゃんと消化して栄養になりますしね。水も飲めるし、睡眠も最初のうちは慣れないところもあるのですけど。ただ、無重力っていう環境は基本的には体にとっては負荷が少なくて楽をしている、寝たきりの様な状態なんですよね。その状態で半年間とかいると、骨がすごく脆くなったりとか、筋肉が弱くなったりしてしまうので、体力訓練の時間は地上にいる時以上にばっちりとっています。それが一番大変かもしれないですね。

――宇宙でのトレーニングはどの様にするのでしょうか?

野口 ウエイトリフティングみたいなのは、無重力なので使い物にならないですよね。ですけど、例えばゴム紐を伸ばすとか、バネの力みたいなものはあるので、昔はゴム紐を伸ばすみたいなやつを使っていました。最近は、ジムにもありますが、ダイアル回すと空気の圧力が変わって負荷が変わるっていうのがあって、それを使っているのでかなりの運動ができます。あとは、自転車を漕ぐようなのは同じなので。

――ランニングマシンみたいなものは無理ですもんね。

野口 ランニングマシンも実はうまい事、体をしっかり紐で固定して、それを回っている面に引っ張り続けるというのがあります。トレーニングマシンも色々と進化はしてきていますよ。

――その他に宇宙滞在中に大変だったことは何かありますか?

野口 先ほどもちょっとでましたが、どうしても時間に追われる感覚はあります。その日一日や一週間、滞在中に終わらせなければいけないことはそれぞれあるので。それは大変ですが、そこは考えようで、自分がやるべきことはその日一日、安全に且つ出来るだけミスがなく終わればそれでいいやと思えるかどうか。無理して健康状態とか精神的に支障が出る方がよっぽど地上の人たちは困るので。あとは、仕事に追われているのではなくて、仕事を追うっていうんですかね。自分がここまでやろうと思っているからやるんだっていう気持ちです。ただ中には、歯を食いしばって仕事を終わらせなければいけない時もありますので、それはつらいですね。

――宇宙といえば、アメリカ軍がUFOを未確認な現象であると認めたというニュースを見ました。野口さんは宇宙人っていると思いますか?

野口 UFO自体は未確認飛行物体ですよね。ですから、正体が分からない。現在の技術をもってして認識が不可能だとアメリカ軍が認めたという事自体はすごい事で。可能性は3つあるわけですよ。1つはアメリカ以外のすごい技術を持った国が飛ばしてるという可能性。もう1つは、自然現象。火球みたいなやつですよね、隕石の一種ですけど。もう1つは、まさに現在の我々の文明ではありえないもの。その内の1つは、宇宙だと思いますが…。例えばタイムマシンで未来から来たといってもあり得るわけですよ。宇宙人が来るよりも今から1000年後にタイムマシンが実現している方がよっぽど可能性があると思います。それくらいの文明の進化ってあって良いんじゃないのって。それと、この広い宇宙のどこかに、我々人類のような知的な生命体は必ずいると思うけれども、きっと我々は会うことはないだろうなと思います。あまりに広い空間ですのでね。広い広い銀河系の中で我々の太陽系はすごいすごい端っこの方にいるので。宇宙人がわざわざこんなところまで来ることはないのかなと。ですから宇宙人はいると思う。UFOもあると思うけれど、必ず宇宙人とは思わないですね。

――野口さんご自身についてですが、子供の頃から宇宙飛行士になりたかったのですか?

野口 小学生くらいの頃から将来の夢に宇宙パイロットと書いていました。ただ、すぐになれる仕事ではないので、民間企業のメーカーに就職しましたが、次に機会があればという気持ちはすごくありました。働き始めて5年目くらいの時に、社内報に宇宙飛行士の募集が出たのを妻が見つけたんですよね。それで挑戦することになって…妻にはすごく感謝をしています(笑)。

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――宇宙飛行士になりたいという気持ちを貫き続けることができた、その根幹の部分って何なのでしょうか?

野口 一つは宇宙飛行士になりたいなって気持ちが残っていたということですね。社会人になってからの自分の経歴も含めて宇宙に行くということに活かせるんじゃないかと思った。でもやっぱり一番大事なところは宇宙に行きたい、ロケットに乗りたい、宇宙飛行士として挑戦してみたいという気持ちがどこまで残っているか、保ち続けられるかというところではないでしょうか。

――宇宙へ行くことに恐怖はなかったのですか?

野口 自分がコントロールできないものに対する怖さというものは必ずあると思います。新幹線だって考えようによっては怖いですよね。僕も宇宙に対して恐怖がないわけではないですが、恐怖を上回る興味というか、先に行ってみたいという気持ちがあるということかなと思います。

――野口さんが初めて宇宙へ行かれたのは、コロンビア号の事件があった後でした。

野口 そういう意味では一回目のときはコロンビア号の事故がありましたし、今訓練に入っているミッションでは、まだ宇宙に飛んでない新型の宇宙船に乗ることになります。種類は違いますけど100%安全ではないので…。結局そこに挑戦することで何が得られるかですね。今回に関していうと、現時点で乗れる宇宙船はソユーズ(ロシアの宇宙船)しかなく、それでは月や宇宙観光旅行はできない。僕が今回、民間企業の新型宇宙船で飛ぶことによって、そこから先に民間宇宙旅行…宇宙修学旅行とか、宇宙ホテルに繋がっているという確信はあります。その為に飛ぶんだという気持ちですね。

――私達も宇宙へ旅行できる日が来たら嬉しいです。それでは次の宇宙滞在で、楽しみにされている実験でしたり、何か目標にされていることってありますか?

野口 来年に関していうと、オリンピック、パラリンピックがあるので、地上のみなさんとも盛り上がったりしたいですね。そのタイミングで宇宙にいけるのはすごい楽しみです。それと地上のみなさんに興味をもってもらえるような実験テーマが絶対あると思うので、そういうところは本当に一生懸命成果が出る様に頑張りたいと思います。

――ありがとうございました!

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