YJ×怪談師インタビュー vol.1 怪談社

YJ×怪談師インタビューvol.1
撮影◎石川耕三

YJ×怪談師特集、第1弾は怪談社のお二人。今まで取材した中で印象に残っている怖い話は?怪談を語るうえでのコツは?あなたの知らない怪談の魅力に迫ります!

 

怪談社

上間月貴(かみま つきたか)と糸柳寿明(しやな としあき)による、2人組怪談ユニット。定期的に怪談ライブを開催したり、怪談関連の書籍を発表したりと幅広い活動を行っている。入念な取材に基づいたクオリティの高い実話怪談を得意とする。

 

tonarinoyj

――まずお二人が怪談を始めたきっかけを教えてください。

上間 学生時代に怪談をアンケート用紙で集めたことがあったんです。大半は「火の玉が出た」という類の短いものだったんですが、中には大量に教えてくれる人もいました。その経験を経て、「怖い話って意外と沢山あるんだ」と思ったのが怪談を集め始めたきっかけです。その後、たまたま怪談イベントに出たことで語るほうの楽しさにも気づき、今日に至ります。

糸柳 きっかけは特にないですね。そもそも怪談に限らず人の話を聞くのが好きだったんで、その延長に怪談があった感じです。

――もともとお二人は別々に活動されていたんですよね。怪談社はどういう経緯で結成されたんですか?

上間 昔、私が出演していたイベントに糸柳がたまたま客として来たんです。終了後に名刺を渡されたので後日会って話したところ、怪談に対してすごく真摯な人だと思いまして。それをきっかけに互いのイベントに出演し合ったりしていたら、いつの間にか一緒にやりましょうかという話になりました。

――なるほど。お二人は怪談のどういったところに魅力を感じているのでしょうか?

上間 私たちが集めているのは怪談実話と言いまして、必ず体験者がいるんです。なので、「こんなにすごい怪談話を体験者自身から直接聞いている!」という取材の面白さがまずあります。それから、集めた怪談を人前で話すことで、恐怖で顔を引きつらせたり、悲鳴をあげたりといったお客様の反応を見ることができる。そんな演者としての面白さもありますね。

糸柳 自分たちが聞く話は大体二種類に分けられます。まず、どこかで聞いたような話。例えば「振り返ったらそこにいたはずの女の人が消えていた」みたいな。もう一つは完全な作り話(笑)。そういうのは聞いていてわかります。でも中には、この二種類に当てはまらない話もあるんです。まったく聞いたことのない、発想の枠外にある話が。そういう話には大抵、体験した本人ならではの要素が含まれています。例えば「生まれ育った○○地方の××村の話」といったように。そういう話を聞いてリアリティを感じられる瞬間が魅力でしょうね。

――取材という話が出ましたが、普段どのように行っているんですか?

糸柳 民家のインターホンを押しますね。当然アポなしなので、むちゃくちゃ怪しまれます。取材前にその地域の伝承などを調べつつ、現代の怖い話を聞き集めるといった感じです。

上間 私は普段あまり取材には出向かないのですが、出先で話してくれそうな人がいれば声をかけたりはします。ついこの間は、お地蔵さんに手を合わせている小学生がいたので声をかけてみました。

糸柳 お前、それはほんまやめとけって(笑)。一歩間違ったら通報されるから。

――不審者事案ですね(笑)。いい話は聞けましたか?

上間 いえ、残念ながら。取材をしてもハズレが大半です。

糸柳 当たりの割合が少ないから、怪談話って高いんですよ。交通費とかで経費ばかりかかる。平均したら一話一万円とかじゃないですか。基本的には黒字回収できません。

――ちなみに、今まで取材した中で特に印象に残っている話はありますか?

上間 同じ場所の話を、複数の人がするということはありました。例えばこんな話があります。大阪のTという山の近くにあるトンネルの中で、ある人が黒い影をはねてしまった。でも確認しても誰も倒れていない。一方で、今度はやはりTの近くにある公園で、夜、黒い影が列をなして歩いているのを別の人が目撃している。このように、まったく面識もない人たちが、同じような場所で起きた同じような怪異を話すというのは印象に残ります。もしかすると、そこには何かあるのかもしれないなと。

tonarinoyj

――糸柳さんはどうですか?

糸柳 ありますよ。ある場所に両目を手で覆った男の幽霊が出るという噂があって。その幽霊は歩いているような動きをしているんだけど、実際は元いた位置からまったく動いてないんです。

――怖いですね…。

糸柳 確かに幽霊自体も不気味だけど、実はそれだけではなくて。その幽霊が出る場所の斜め前に、民家が一軒だけ建っているんです。住人に話を聞くためにその家に行ったところ、室内の壁に鹿の首のはく製がかけられているのを見つけました。そのはく製の眼球に、数えきれないほどのまち針が刺さってたんです。両目を覆った幽霊の噂がある場所の近くなんで、うっすらとですが何か繋がりがあるような気はしましたね。

――住人の方はよく住めますね…。

糸柳 おばちゃんの一人暮らしだったんですけど、少し怪しげな人でしたね。

上間 怪談そのものより怪談を話してくれる人のほうが怖いパターンもありますよね(笑)。

糸柳 そういえば怪談話の近くには、不思議と悪い人がいることが多いですね。例えば、殺人事件が起きたアパートに幽霊が出るという話があったんですが、そのアパートの一階に実は他の殺人事件の犯人が住んでいたとか。悪意が重なったとしか言いようがない状況ですよね

tonarinoyj

――不思議ですね。今、実際にお二人の語りを聞いていて気になったのですが、怪談を語る際の工夫などはあるんでしょうか? 例えば糸柳さんは「個人稽古」という講座をされていますが、そこではどんな指導をされているんでしょうか。

糸柳 稽古場だと……ビタミンを取りましょうとか。

上間 これ本当に言ってるんですよ(笑)。

糸柳 そもそも語りに上手い下手ってないんですよ。「こうしなきゃ」というルールも特にない。その人に合った語り方があるんで、それができれば十分なんです。工夫というものがあるとするなら、無理をしないってことですよね。下手にそれっぽくやるのは、かえって逆効果だったりする。

上間 あとは、「とにかくわかりやすく」というのも意識しています。例えば十人でキャンプに行った話があったとして、その十人の名前を全部言う人がたまにいるんですよ。その話、実際は二人で成立するのに。そこで不必要な八人について言及しなくても、それは嘘をついたことにはならないですよね。

糸柳 とにかくシンプルに。長い話は嫌われますね。登場人物を忘れたり、場面転換に混乱したりするので。

――怪談社さんはライブに力を入れられていますよね。音響やセットを自分たちで作られているのが印象的です。ライブでこだわっていることがあれば教えてください。

糸柳 怪談ってテレビやパソコンを使えば、家でも見たり聞いたりできますよね。それなのに、わざわざ外出してまで観に来てくれるお客さんに対して、単純に「来てよかったな」と思えるものを提供する。それだけですね。お客様あっての怪談社なので。

上間 お客さん全員に楽しんでもらうことは大切ですよね。ライブにいらっしゃる方の中には、「怪談に慣れている方」「怪談が初めての方」の二通りいると思います。どちらの方にも楽しんでいただけるよう、話選びは工夫しています。

tonarinoyj

――ありがとうございます! 最後に今後の活動について、どのような展望をお持ちなのか教えてください。

糸柳 新しい企画はどんどん打ち出していきたいですね。内容はまだ秘密ですけど。

上間 怪談界の将来に向けて種を蒔くことはしていきたいですね。例えば子供たちに怪談を聞かせるイベントをやったことがあるんですが、それをきっかけに怪談を好きになってくれる子がいるかもしれません。まだ怪談をよく知らない人たちに向けて発信していくことは必要だと思います。

――ありがとうございました!