YJ×脚本家スペシャルインタビューvol.2 高橋悠也

YJ×脚本家スペシャルインタビューvol.2"
撮影◎石川耕三 ヘアメイク/chi-gi(Mamere)

映画やドラマ、アニメなどで大活躍中の脚本家の皆さんに、全3回にわたってインタビューを実施!!第2回は『仮面ライダーゼロワン』などを手がける高橋悠也さんが登場!

 

高橋悠也(たかはし ゆうや)

主な脚本参加作品に『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(2012年)、『金田一少年の事件簿N(neo)』(2014年)、『仮面ライダーエグゼイド』(2016~2017年)、『仮面ライダーゼロワン』(2019~2020年)など。

 

≪脚本家への道のり≫

―ではまず、脚本家を志した経緯を教えてください。

高橋 元をたどると漫画家になりたかったんです。小学生時代に『ドラゴンボール』を真似したような作品をノートに描いたりしていました。ただ、同級生で同じように漫画を描いている人がいて、その人の絵がすごい上手かったんですね。その時、子供ながらに、自分は絵を描く才能がないなと思って漫画家は諦めました。ただ、物語を作るのは好きだったので、そこからは短編小説を書いたり、RPGゲームのシナリオを独自で作ったりしていました。より本格的になったのは高校卒業後。舞台の世界に行って、そこで脚本を書いて演出するというのをやるようになりました。二十代はずっと舞台でしたね。三十代になる頃に、ようやくドラマやアニメなど映像作品を手掛けるようになり、今に至ります。

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≪物語=メッセージ≫

―脚本家というご職業の、どういった点に魅力を感じるか教えてください。

高橋 何もないところから作った物語が、何年たっても後世に残り続けるという点は非常に魅力的だと思います。十年二十年、あるいはもっと先の時代に生きている人たちが「無人島に持っていくならこの作品だな」と思ってくれたり、ともすれば人生を考えるきっかけにしてくれたりするかもしれない。そう考えると、やりがいを感じます。また、例えば「ご飯は残さず食べましょう」でもいいんですが、何か伝えたいメッセージがあった時に、それを物語に変えて伝えることで、単に言葉で伝えるよりも深いものにできるのがいいですね。

―なるほど。高橋さんが脚本を書かれていた『仮面ライダーエグゼイド』(以下、「エグゼイド」)『仮面ライダーゼロワン』(以下、「ゼロワン」)2作のメイン視聴者層である子どもたちにとって、そこで語られるメッセージの影響は、非常に大きい気がします。

高橋 そうですね。教科書で学ぶことも勿論ありますけど、エンターテインメントも人格形成に影響を与えると思います。実際、自分にとっても『ドラゴンボール』『幽遊白書』のような漫画から、『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』のようなゲームに至るまで、エンタメの存在は大きかったです。人格形成にとどまらず、今の創作活動の礎にもなっていると思います。

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―今、何作か挙げていただきましたが、特に影響を受けたエンタメを教えてください。漫画でも、小説でも、ドラマでも、媒体は何でも大丈夫です。

高橋 漫画だと『行け!稲中卓球部』(以下、「稲中」)です。性善説、性悪説で言えば、僕は完全に性悪説側で、基本的には、根っこでろくでもないことを考えているのが人間なんじゃないかなと思うんです。で、「稲中」のキャラクターたちは、大体ろくでもない(笑)。でも、そのろくでもない部分を隠さずに生きているキャラクターを見ると、すごく心が動かされるんです。普通なら隠す自分の駄目な部分をさらけ出すことに対し、勇気があるなと思うわけですよ。あとは、ドラマだと『ビーチボーイズ』ですね。竹野内豊さん演じる普通の会社員・「海都」というキャラクターが、あるきっかけから会社を辞めて海で生活するようになるんです。自分がクリエイティブな世界に飛び込む際、実際に食べていけるか不安だったんですが、そのストーリーにやはり勇気を貰いました。

―ありがとうございます。次に、脚本を書かれる上で最も大事にされていることを教えてください。

高橋 作品によって変わってくる部分もあるんですが、メインキャラクターの配置の仕方には重きを置いています。具体的には作品のテーマに対して、各キャラクターの持つスタンスが対極に位置するようにしています。そうすることで、そのキャラクター同士がぶつかった時に生じるエネルギーが強くなり、刺激的なドラマを生みやすくなります。逆にスタンスが近い位置にあるキャラクター同士だと、思うようにぶつからない。だから何も噛み合わないほうが、むしろいいんです。「エグゼイド」や「ゼロワン」の時も実践していました。

―「仮面ライダー」のお話が出ましたが、昔から続いているシリーズの新作を手がけるのは、プレッシャーも大きかったかと思います。新しい「仮面ライダー」の物語を生み出すために意識したことがあれば教えてください。

高橋 僕はまだ二作しか関わってないんで、偉そうに語れる立場でもないんですよ(笑)。ただ、強いて言うならテーマやモチーフを特化させることですかね。「エグゼイド」の時は「医療」と「ゲーム」をモチーフに「命」というテーマを描き、「ゼロワン」なら「AI」をモチーフに「心」というテーマを描いている。だから、そのモチーフやテーマに関わること以外は描かないんです。何でもかんでも描いちゃうと、どこにでもある作品になっちゃうので。平成だけでも作品数が二十以上ある中で、どのシリーズにもない独自性を持たせるには、与えられたテーマとモチーフを狭く深く掘るしかないと思います。まあ、こればっかりはもっとやってみないと、わからない部分もあるんですけど。

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―ヒーロー番組の脚本をやるうえで難しさはありましたか?

高橋 言い方は悪いですが、多くのヒーローが暴力を使って敵を倒すじゃないですか。その行為を、見ている人が応援したくなるよう描くのには頭を悩ませました。結局は見ている人に「悪を打ち砕いてほしい」と思わせるしかないので、いかに敵役を描くかっていうことに尽きるんですが。ただ、「仮面ライダー」の場合、正義にも悪にも、それぞれ信念があることが多い。だから、敵を倒す際、時たま主人公が悪いことをしているように見えかねない場合があるんですね。敵役に人気が出たりすると特に。突き詰めていくと、怪人だから倒してOKというのもエゴじゃないかと思えてくる。人間にとっては確かに敵だけど、向こうからしたら人間が敵じゃないかと。「ゼロワン」でもそういう部分を意識して、人間とAIの対立を描いてきたわけです。視点によって正義と悪が変わる、それがヒーローを描く楽しみでもありますし、難しさでもありますね。

―なるほど。そうした二面性を意識しつつ、高橋さんが思うヒーロー像を教えてください。

高橋 いわゆる弱きを助け、ということに尽きるかなと。加えて、ヒーローが助ける弱者は身近であればあるほどいいと思います。国を守るヒーローとかは、スケールが大きすぎていまいちピンとこないことが多いです。例えば道端のたんぽぽを踏まれないように守るとか。踏まれても世の中に大した影響はないんですが、それでも守ろうとする姿勢に惹かれます。

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≪今後について≫

―映像業界は、新型コロナウイルスによる悪影響が特に大きい業界だと思います。ウイルスが流行り始めてからの期間、どのようなご苦労がありましたか?

高橋 「ゼロワン」がそうだったんですが、撮影ができなくなった分、当初予定していたストーリーの全体構造とズレが生じた点は大変でした。もちろん、その中で最大の努力は尽くしましたが、アドリブで物語を変えていかなきゃいけない苦労はありましたね。まあ、一番大変なのは、撮影する現場の人たちなんですが。

―なるほど。コロナ禍のエンターテイメント業界にいて、他に感じたことがあれば教えてください。

高橋 嫌な想定かもしれませんが、ソーシャルディスタンスやマスク常備のような現在の生活様式と、今後ずっと付き合っていくことになる可能性もゼロではない。となると、そういう生活を前提とした作劇を、フィクションでも考える必要が生じるかも…、というのは少し考えます。ウイルスと一緒の生活が土台にある場合、リアリティという面で考えると描かないのも不自然なので。もちろん希望としては、そうならない方がいいんですけどね。

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―ありがとうございます。最後に、今後どういったお仕事をされていきたいですか?

高橋 夢は大きくということで言うなら、やっぱり世界の人に楽しんでもらえるような作品を作っていきたいです。グローバルな時代ですからね。もっと手前の小さな夢だと、こってこてのホラーをやってみたいです。ヒーローものをやった後は、悪側を描いてみたくなるもので、ホラーはそのうちの一つですかね。楽しそうだなと思います。

――ありがとうございました!