TVドラマ化もされた大人気作『ドロ刑』の作者・福田秀先生の最新作『スタンドUPスタート』。待望のコミックス第1巻発売を記念して、起業・経営コンサルタントとしてビジネスネタの提供・監修を手掛ける上野豪さんと福田先生の対談が実現! 創作裏話を語っていただきました。
上野 話も絵もこのレベルを週刊でやっているのが本当にすごいですよね。
福田 上野さん抜きでは絶対成り立たないです。前作の『ドロ刑』の時に何に一番時間を取られていたかって、調べることなんです。セリフでは一言だけなのに3時間くらい調べても答えがでなかったりとか…。そういうコスパの悪さみたいなのを感じていたので、質問したら答えていただけるありがたさをすごく感じています。
――1話が出来上がるまでですが、まず上野さんがネタを出して、福田さんがネームを描き、それを上野さんが監修して…という流れで、かなりやり取りのある形で作られています。
上野 まずストーリーとかは関係なく、僕が面白いと思った業界の出来事やネタを矢継ぎ早に投げるんですね。それこそ四方八方にボールを投げる感覚なんですが、それを福田さんがしっかりと拾ってストーリーに落とし込んでいくので、毎回すごいなと思っています。
福田 こちらの感覚では、キャラクターを軸に考えていくじゃないですか。こうなったらいいなっていう理想のルートがあって、後からそこにあてはまる事実を探したりするんですけど、きっと何かしらあるだろうと楽観視してます(笑)。
上野 確かに、ビジネスネタって尽きないですからね。ネタの宝庫ですから。
福田 そうですね。投げれば何かしらあたるっていうか。成功例もあれば失敗例もあるし、聞いたことのない起業の仕方やジャンルもあったりして、描きたい事のために無理やり捻じ曲げなくても、そういう事実が既にある。大変ではあるんですが、やりやすいところでもあると思っています。それを全部見つけてくださっているのが上野さんなんですけど(笑)
――そういうビジネスのネタはどうやって調べるんですか?
上野 例えば7話のラストに出てきたMBO(マネジメント・バイアウト)の時は、エピソードに沿った形に成立させるためにM&Aアドバイザーのプロに聞きました。渋沢栄一については渋沢栄一研究の第一人者の守屋淳さんにお会いしたり。
福田 上野さんに調べものをお願いした時にいつも「嘘でしょ?」と思うのは、調べる先に実際にその仕事をされてる方がいらっしゃるじゃないですか。「今度聞いてきます」ってあっさり仰って下さるから「いるんだ?」って。現役起業家の方の繋がりはすごいなって。実際にその仕事についている方の声って一番取材で聞きたいことなので、とてもありがたいです。
上野 お恥ずかしい(笑)
福田 そういう意味で1話目は逆で、実際にあるかどうか知らないで描いた起業ネタだったんですよ。これいけるんじゃないかって思って描いたんですが、掲載された後にSNSで「それやろうとしてた!」とか、実際やっている人もいたかな、そういう声があって。結局自分が思い付くことって誰かしらきっとやってるんだなって、ある意味で勇気がもらえました。
上野 この漫画の真似してスタートアップする人が将来出てくるかもしれないですね。
福田 そうなったら、「ほら実際にこういう人いるじゃん」って言えるのでいいですよね(笑)。
上野 1話といえば林田さん、すごくグッときますよね。おじさんの気持ちがすごくわかる。
福田 主人公の大陽が若いとはいえ、50歳くらいの年齢のキャラクターをメインどころに置くのは結構不安ではあったんですけど。
上野 そこがいいですよね。僕の周りでもめっちゃ刺さってましたもん。自分がそうなのかわかんないですけど。近しい人が周りにいたりして、すげぇリアル、わかるって。世の中に林田さん、めちゃくちゃいると思いますよ。
福田 嬉しいけど、ちょっと悲しい話なのかもしれないですね(笑)
上野 1巻に載る分じゃないですけど、11話の「やるか、やらないか」みたいな、起業家あるあるというか共感する話を描けるのがすごいなと毎回読みながら思っていて。サラリーマンとして勤めたことがないと仰っていたのに、あそこまで気持ちが分かるのはなんでなんだろうって。
福田 作家さんのやり方として、自分がそのキャラクターに成り代わって考えられる没入型みたいな人と、分析して考える人がいるとしたら、自分は後者なんですよ。どうしても感情移入しきれないたちなので、ひたすら調べて読み漁ったことをミックスして、こんなことが起こるとこんな風に思うんだなって。たまに自分でも調味料を合わせてるみたいだなって思うことがあります。悲しみと喜びをこの割合で、みたいな(笑)
上野 お話を聞きながら、元USJの有名なマーケターの森岡毅さんみたいなセリフだと思いました。森岡さんも全部ロジカルに考えて当てにいく人なので。
福田 没入型の作家さんは憧れまくるんですけど、それが苦手である以上自分はこうやるしかないなって。
上野 面白いですね。
――いろんな年齢層・性別のキャラクターを描き、ビジネスのネタについても最新のものを取り入れて描いていて。新型コロナウイルスの影響についても描かれていますが…。
福田 あー、あれは頭抱えましたね。なんで今!?って
上野 そうなんですか?
福田 だってもう、描かない、無視できないだろうって。でも扱うのも怖いし…。
上野 制約が漫画に生まれるってことですもんね。コロナを描くってことは。
福田 でも結局マスクもしてないですし、漫画だから許してくださいって感じなんですけど。実際に今めちゃくちゃ会社やお店が潰れちゃってるじゃないですか。時事ネタをいっぱい扱うという前提で描いているのに、コロナのない世界は描けないだろうって。
上野 確かに。
福田 すごく大変な時ではあるんですが、同時に今この時期を狙って何かを新しく始めようとしている気配も多いらしいんです。扱うのは怖いけど、漫画の題材としても濃いものがあるので、描いた方がプラスになるんだろうなと思って。あと多分、こんなに日本のみならず世界中にとって切実なネタって今ないじゃないですか。まぁ、描くよねって。
上野 その発想が起業家ですよね。ピンチじゃない、チャンスだって。
福田 避けては通れなかったです。
上野 これ僕の感想になるんですけど(笑)9話でコロナで倒産したって回の大陽にすごくグッと来たんですよ。大陽が「投資できない」って初めて言ったんですね。ちゃんとリターンも考えてて、そういうことも見据えながらやっているのが分かって「やっぱこいつ投資家だ」って。
福田 確かにそこは自分でも意識しないとと思っています。起業って利益が出ないと続かないので、大陽がボランティアになっちゃだめだって。実際漫画で描いている内容で採算とれるかは分かんないんですけど、でもとれるものをちゃんと大陽が計画してればいいかなと。
上野 バランスのとり方が絶妙ですよね。リアルになりすぎると、あまりに手厳しい投資家になって(笑)。僕らもだいたい50~60社くらい出資のお願いに伺って、出資していただけるのが1~2社なんてのが当たり前なので。救いがないじゃないですか、お前投資しねーのかよって。でもきちっとそこのバランスをとるっていうか。すごかったです。
福田 起業家の方って漫画がお好きな方が多いイメージがあるんですけど。
上野 意外と多いですね。『神マンガのストーリーで学ぶMBA入門』という本を出したんですが、その研究をした時に社長を含むビジネスパーソン300人くらいにヒアリングしたら、8割くらいの人たちが仕事に漫画が影響していると答えていて。そもそも日本人全体が読んでいるからっていうのはあるんですけど、やっぱり漫画を読んでいる人は多いです。
たとえば毎朝出勤前に『スラムダンク』を読んで自分を奮い立たせる社長とか(笑) ビジネス書と同じくらい心の師にしている人は多いですね。
――毎朝『スラムダンク』を読んで奮い立たなきゃいけないくらい社長業は大変なんですね。
上野 福田さんが漫画で描いてくれたように、社長の4割くらいは何らかの精神疾患になっているというデータもあります。エビデンスはないデータでしたけど、8割くらいが何らかの健康被害があって、体調に不調をきたす割合が通常の社員の何倍もあるみたいな。
福田 作家さん同士で喋っていると「どうしたら漫画がうまくなるのか」みたいな話になるんですけど、結局突き詰めていったときに一番大事にするべき能力って健康なんですよ(笑)。結局いつもそこに落ち着くっていうか、心も身体も頭も全部連動しているので、丈夫であることが最終的に一番大事。もし会社が潰れたとしても身体と心が健康ならやり直せるので。
上野 フェイスブックのプロフィールをマラソンで走っている写真とか運動している写真に変えると、健康で大丈夫そうだ、と出資が決まるんじゃないかって冗談言っていました。
福田 笑
上野 ジムに通う経営者が多いのはリアルです。やっぱり何か起こった時のために自分の身体を鍛えておかないとって。
福田 知らないとナルシストなのかなと思ったりするんですけど、ちゃんと理にかなってたんですね。
上野 半分はナルシストかもしれません(笑)
――最後に読者にここを見てほしいというところを教えてください。
上野 1話のなかに描ききれないくらいのネタがあって、すべて事実とデータに基づいています。「こんなことやってるの!?」というビジネスも実際にあったりするので、それが今後どういう風に料理されて描かれるのか、見ていただきたいですし、個人的にも楽しみです。
福田 読者の方が好きに読んでくれたらいいかなと思うんですが、たまに誤字とか原稿の絵柄のミスがあったりするんですけど、そういうところをスルーする読み方をしていただければなと(笑) コミックスの時に一応修正するんですけど。
上野 そこ(笑)。そういう違いを突き詰めるの好きな人いますもんね。
福田 やめてくれーって思います(笑)。
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